30年ぶり値上げ 新しい“おもてなし” 変わるお遍路文化
(NHK 2024年2月2日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240202/k10014340181000.html

【ホッシーのつぶやき】
四国の「お遍路」、コロナ禍で2014年の10万人超えから2020年度以降5万人以下に激減している。物価高で運営が難しくなり「御朱印」が値上がりするという。一部の訪日外国人には人気だと聞くが、まだ多くの外国人には知られていない。『アクティビティー』『自然』『異文化体験』の全ての要素を持つ「お遍路」は外国人を惹きつける可能性があり、挑戦も始まっているようだ。

【 内 容 】

四国各地にある88か所のお寺=札所を巡る「お遍路」。ことしは札所を逆の順番に回る「逆打ち遍路」を行うと御利益が3倍になるといわれるうるう年で、遍路客の増加が見込まれています。
ただ、札所の中には、コロナ禍や物価高騰によって運営が難しくなっているところもあります。
1200年を超えて継承されるお遍路の文化を、どう維持していくのか。模索する現場を取材しました。(高知放送局記者 竹村知真)

コロナ禍で減少した遍路客
高知市五台山にある31番札所の竹林寺。鮮やかな朱色の五重塔が有名な古刹で、幅広い年代の遍路客が訪れています。
「お遍路をするたびに、心が澄み切っていく感じがします」(遍路客)
「気持ちが安らいで素直になれる気がします」(遍路客)
ただ、竹林寺の住職によりますと、コロナ禍で減少した遍路客はまだ完全に回復していないということです。竹林寺の場合、コロナ禍前の4分の3ほどにとどまっています。
全長1200キロの四国遍路
お遍路は約1200年前に弘法大師(空海)が歩いた道を、修行の道として巡ることから始まりました。
江戸時代の中期ごろに確立されたとされ、徳島から高知、愛媛、香川の計88か所の札所を歩いて巡る道のりは全長およそ1200キロ。世界的にも珍しい「回遊型」の参拝が特徴です。

すべての札所を巡拝することで、願いが叶ったり、弘法大師の功徳を得られたりすると言われています。
遍路客の毎年の総数を正確に記録したものはありませんが、参考データとなるのが、徳島県阿南市にある21番札所・太龍寺のロープウエーの利用客数です。

四国霊場が開かれて1200年だった2014年度は10万人を超えました。しかし、新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年度以降は、5万人を割り込む状況が続いています。
さらに昨今の物価高騰も、札所にとって悩みの種です。修繕費用や光熱費などが上昇し、札所の維持が難しくなっているといいます。
竹林寺 海老塚和秀住職
「檀家さんなどお寺を守る方がいればよいですが、札所によってはお遍路さんからの収入だけでやっていかなければいけない所もあります。昨今の物価の上昇もあり、お寺を維持していくのが大変な状況になっています」
「納経料」30年ぶり値上げに
そのため、88の札所からなる「四国八十八ヶ所霊場会」は1つの決断に踏み切りました。

札所で納経帳などに御朱印をもらう際に遍路客が支払う「納経料」の値上げです。4月からすべての札所で100円から200円上がります。

御朱印をもらうものによって値段は異なり
▽「納経帳」は300円から500円に
▽「白衣」は200円から300円に
▽「掛け軸」は500円から700円に
それぞれなります。
「納経料」の値上げは、1994年以来30年ぶりです。
「四国八十八ヶ所霊場会」 畠田秀峰会長
「30年間納経料を据え置いていたため、どこかで決断しないといけなかった。気持ちよくお参りしていただけるよう、霊場の環境を整えていきたい」

海外からの遍路客に期待高まる
苦境にある札所の運営ですが、その助けになると期待されているのが海外からの観光客です。

去年12月、お遍路に関するあるツアーが開催されました。
徳島県鳴門市の1番札所・霊山寺に集まったのは5人の外国人。アメリカ、フランス、イタリア、シンガポール、フィンランドの旅行会社やメディアの関係者です。
ツアーを企画したのは高知の旅行会社。『アクティビティー』『自然』『異文化体験』の3つの要素のうち、2つ以上を組み合わせたアドベンチャートラベルのプレツアーです。
5人はまず札所でお参りしたあと、電動アシスト自転車に乗って次の札所に向かいます。
この日は1番から6番札所までの20キロ弱を自転車で回りましたが、5人とも豊かな自然の風景を堪能している様子でした。
さらに近隣の観光施設も巡ります。今回のツアーでは鳴門市ドイツ館に立ち寄り、第一次世界大戦時に日本軍の捕虜となったドイツ兵と地域の人たちがどのように関わっていたのかを見ました。
もちろん、札所ではめい想や写経といった体験をしています。
こうした本格的なお遍路とレジャーなどの組み合わせで、海外からの遍路客をこれまで以上に増やしたいとしています。

アメリカの旅行会社の担当者
「このツアーに参加するまで、お遍路について私はほんの少ししか知りませんでした。弘法大師の旅を追体験し、それぞれの札所の歴史を知るのはとても魅力的でした。私はこのツアーをアメリカで売って、ツアー客を熱狂させられると思います」

フィンランドのメディア関係者
「お寺の雰囲気は安らかで、鳥のさえずりや鐘の音、香り、写経など、どれも神秘的な感じがしました。インスタグラムやYouTubeなどで、お遍路のことを広く伝えたいと思います」

高知の旅行会社のガイドで、今回のツアーを企画したマシュー・ベネットさんも手応えを感じています。
マシュー・ベネットさん
「私も10年くらい前に歩き遍路を始めました。もう4周目です。四国はサイクリングやトレッキング、川遊びなど数々のアクティビティーを楽しめます。世界中の誰もが日々の生活でストレスを感じていますが、お遍路の時にはお参りやめい想、自然を感じられるのでストレスを忘れられると思います」
今回のプレツアーの効果は早速現れています。フランスのスポーツ雑誌「I―TREKKINGS」に紹介記事が掲載されたほか、熱心なフォロワーがいるフィンランドの写真家にインスタグラムで投稿してもらう話も進んでいます。
大型イベント関連でもPRへ
大型イベントに関連したサイトでのPRも計画されています。

四国ツーリズム創造機構によりますと、4月に大阪・関西万博と観光を組み合わせた旅行の販売サイトが立ち上がる予定で、機構ではその中にお遍路の「アドベンチャートラベル」を取り入れた商品も登録したいとしています。
また、愛媛県の旅行会社も、お遍路を組み込んだ商品を海外向けに販売すべく調整中で、秋以降のツアー開催を目指しています。

海外からの遍路客 増える可能性は?
もともと四国各県は、観光客の滞在日数の増加を観光戦略に掲げていて、お遍路はその核の1つになります。
観光が専門の高知県立大学の友原嘉彦准教授は、今後、海外からのお遍路客は増えていく可能性があると指摘します。
高知県立大学 友原嘉彦准教授
「四国は山や川、海など自然が豊かで、その中を巡るというコンセプトはとてもよい。またお遍路は仏教の寺院を回るため、死生観を考えるきっかけになります。そうした旅は、海外の人たちにも人気が出ると思います」
その一方、課題もあると言います。
「札所を回る環境の整備が不可欠だと考えます。例えばゴミ箱やベンチを設置するとか、遍路客が気持ちよく巡るためにできることはまだまだあります。また、日本は海外に比べて○○禁止といった注意書きが多いように思います。こうした看板は、遍路客にとって『歓迎されていないのかな』という気持ちにもなるので、配慮していくといいと思います」

新たな旅行スタイルで魅力高める
新たな旅行スタイルでお遍路の魅力を高め、「変化」していく――このことが1200年の歴史を持つお遍路の文化を「守る」ことにつながりそうです。
竹林寺 海老塚和秀住職
「長い歴史から見れば、もともとは歩き遍路しかなかった。それが車社会になり、車で回るようになった。時代によってこの四国遍路は変わっていると思いますし、お遍路に求めるものもまた、変化しているのだと思います。いろんな切り口で1200年の歴史を持つ四国遍路の魅力に触れていただいたらよいのかなと思います」