観光プロモーションも「ステマ規制」の対象、注意すべきポイントを法律事務所が解説【コラム】
(トラベルボイス 2023年12月11日)
https://www.travelvoice.jp/20231211-154698

【ホッシーのつぶやき】
ステマ広告への規制が10月1日に施行されています。
しかし理解しにくい表現ですね… まあ微妙な問題もあるだけに、分ったような分からないような表現になるようです。著作権も同じような解釈でした。
ステマ広告と認めて「広告」「宣伝」と表示すれば問題はないでしょうが、広告・宣伝ではないと言う場合、裁判で成否をハッキリさせるしかないようです。

【 内 容 】

広告であることを消費者に隠して商品やサービスの宣伝をするステルスマーケティング(以下、ステマ)への規制が始まっています。消費者庁は2023年3月28日、ステマを不当景品類及び不当表示防止法(以下、景品表示法)上の不当表示として規制するための告示を公表し、10月1日に施行しました。観光に携わる自治体、DMO、事業者の皆さんにとっても他人事ではありません。旅行者誘致に向けた観光プロモーション実施で、同規制はどのように適用され、また何に留意すべきなのでしょうか。

規制対象となるための2つの要件
いわゆる「ステマ規制」の対象となる表示は、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であること(要件1)、及び一般消費者が事業者の行う表示であることを判別することが困難と認められるものであること(要件2)という2つの要件を充たすものになります。

観光関連の商品や役務(サービス)のプロモーションは、SNSやレビューサイト上での消費者の肯定的なレビューが有効です。もっとも、このようなレビューが実際には広告・宣伝であるにも関わらず、広告・宣伝であることを隠される形で行われた場合、消費者は、これを事業者の意向が反映されていない独自のレビューであると考え、広告・宣伝にありがちな誇張が含まれていないと誤解してしまいます。ステマ規制は、消費者が広告・宣伝であると認識できない形で行われるステマを規制することで、消費者が商品・サービスを自主的かつ合理的に選べる環境を確保することを目的としています。

インフルエンサー活用のケース
観光産業ではインフルエンサーを活用したプロモーションも少なくありません。この場合、どう対応すればよいでしょうか。前述したステマ規制の要件1及び2を踏まえて、具体的な事例を考えてみましょう。

ホテルAが、インフルエンサーXに対して、ホテルAの宿泊費を無償とし、ホテルAまでの往復交通費をホテルAが負担する代わりに、XがホテルAへの宿泊の感想をSNSに投稿することを依頼しました。

ホテルAは、Xに対して具体的な投稿内容を指示していません。Xはこれに応じて、自らのSNSにホテルAを利用した感想を投稿しました。

つまり、ホテルがインフルエンサーに対して交通費と宿泊を提供するかわりに、具体的な投稿内容には関与しないもののSNSへの投稿を依頼したというケースです。

このような形で事業者がインフルエンサーにSNS投稿を依頼する場合は、具体的な状況に応じて投稿が事業者の表示となる場合と、ならない場合の双方が考えられます。

前述の要件1が充たされるか否かは、ホテルAがXに提供した対価の内容(ホテルAが提供したサービスが高額なものであるか否かといった事情や、ホテルAが宿泊費を無償とするだけでなく往復交通費を負担していること等)、ホテルAとX間のやり取りの具体的経緯や関係性の状況なども踏まえて判断されることになります。

事実関係によっては、Xの投稿が自主的な意思による表示とは認められず、事業者の表示であるとして要件1の充足が認められる可能性があります。

また、Xがたとえば「広告」「PR」といった文言や、ホテルAから無償での宿泊機会を提供されて投稿しているといった文言をSNSに表示し、それが内容全体から一般消費者に事業者による広告であることがわかるものと評価できる場合でなければ、Xの投稿は、一般消費者からして事業者の表示であることを判別することが困難なものに当たり、要件2にも該当します。

そのため、インフルエンサーを活用する場合、SNS投稿において「PR」などの文言を表示したり、無償での宿泊機会を提供されて投稿していることを積極的に明示したりすることなどで、事業者の表示であることを明らかにすることが考えられます。

もっとも、「広告」「PR」とどこかに記載しさえすればその態様を問わずステマ規制をクリアできるものではなく、例えば、大量のハッシュタグを付した文章の記載の中に「#PR」や「#広告」といったハッシュタグを埋もれさせる場合、事業者の表示であることが不明瞭な方法で記載されているとして、一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である(要件2)と評価されるリスクがあります。不明瞭な方法と見なされないよう、わかりやすく表示することが必要です。

同規制に違反した場合、景品表示法7条に基づく措置命令の対象となり、事業者に対して、「内閣総理大臣は…行為の差止め若しくはその行為が再び行われることを防止するために必要な事項又はこれらの実施に関連する公示その他必要な事項を命ずることができる」(景品表示法7条1項)とされています。措置命令に違反した者には、2年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金が科され、又はこれらが併科されます(景品表示法36条)。また、法人等には、両罰規定に基づき、3億円以下の罰金が科される可能性もあります(景品表示法38条)。

OTAへのレビュー投稿で割引クーポン付与は?
観光アクティビティ事業者とOTAに関わる事例はどうでしょうか。

観光アクティビティをOTAに掲載する事業者Bが、顧客らが同OTA上でレビュー(クチコミ)を投稿すれば、次回以降の予約で使える割引クーポンを提供するキャンペーンを実施します。

これに反応した顧客がレビューを投稿、割引クーポンを受領しました。

この場合、顧客の投稿するレビューが、要件1の「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」であるかが問題となります。

事業者が第三者の表示に関与したとしても、客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められるものであれば事業者の表示には当てはまりません。

事業者Bが、割引クーポンを高評価のレビュー投稿を条件として提供しているなど、表示内容に関して対価や経済上の利益が提供されている事実がなく、その他事業者Bと顧客との間で投稿内容についてのやり取りが一切行われていない場合には、顧客の自主的な意思による表示内容として要件1が充たされず、ステマ規制の対象とはならない可能性が高いといえます。

海外の規制法令にも配慮が必要
観光産業では、外国の事業者と直接取引を行う場面も少なくないでしょう。その場合も、外国の事業者が日本国内の消費者向けに表示を行う際には、ステマ規制の適用対象となることに注意が必要です。実際、日本に本店も営業所もない事業者が日本の消費者向けにオンラインゲームを配信していたケースで、事業者が行った表示について景品表示法に基づく措置命令が出された事例があります。

また、海外にもステマを禁止する法令があり、そのような法令に基づく処分事例も数多くあります。急増するインバウンド客を誘致するために外国市場向けのステマを行う場合は、日本の規制だけでなく、その国・地域の規制にも配慮することが求められています。