コロナ禍で大量失業者を出しても、日本の観光業の未来が明るいワケ
(ダイヤモンドオンライン 2020年6月4日)
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これまで未曾有の災害にあっても観光は復活してきた。客の激減も早いが「戻り」も早いからだという。
しかしこのレポートは、アフターコロナ の観光には楽観的すぎるようだ。
「旅をしたい」「美しい景色を見たい」は、人類の普遍的な欲求でり抑えることができないのは事実だ。
雄大な自然を体験する「アドベンチャーツーリズム」が世界的に大人気であり、日本には豊かな自然があり、「環境整備」がと整えば、需要は大きいという。
こうした環境整備を整えながら、立ち直りを待つしかなさそうだ。

【ポイント】
厚生労働省の「新型コロナの影響で解雇や雇い止めに遭った人数」によると、3万214事業所において1万6723人(5月29日現在)となった。最も多いのが3702人の宿泊業、次いで2287人の旅客運送業となった。

世界観光機関によれば、世界の国際観光客到着数も国際観光収入この25年間、ずっと右肩上がりで増え続けている。
観光は、世界的な経済危機や国際的な紛争、あるいは膨大な数の人が犠牲になる未曾有の災害などが発生しても、それらの影響をほとんど受けることなく、安定的に成長できる産業ということだ。
なぜこうも危機に強いのかというと、客の激減も早いが「戻り」も早いからだ。

GDPの2割が観光を占めるタイは、2004年末、22万人が亡くなったスマトラ沖地震で外国人観光客を含む8000人以上が亡くなり、観光業は大打撃を被った。2005年2月時点で、プーケットなど3県でのホテルの客室稼働率は10%程度まで低下し、50万人の従業員が失業する見込みだった。
しかし、フタを開けるとそこまで酷いことにはならなかった。
2006年のプーケットへの観光客数は450万人と、2005年から79.4%も増加した。その後も、タイは洪水や軍事クーデターなどが発生して、そのたびに観光業が大打撃を受けたが、順調に成長した。
2018年の国際観光客到着数は3800万人で、世界9位。観光収入は、アメリカ、スペイン、フランスについで世界4位。名実ともに「アジアの観光立国」としてタイ経済を牽引している。

製造業などの場合、人件費や競争力で負けたり、貿易摩擦が起きたりといった要因でなかなか回復できない場合があるが、観光はシンプルなサービス業であるがゆえに、観光資源に恵まれていれば客は必ず戻ってくるので、産業としての立ち直りが早いのである。

旅をしたい。遠くへ行きたい。美しい景色を見たい。異なる文化に触れてみたい――。これらは人類の普遍的な欲求であって、決して抑えることができない。
トリップアドバイザーが日本を含む6カ国を対象にした調査で、「外出規制で今すぐには行けなくても、私にとって旅行は重要なものだ」と考える人は、日本、オーストラリア、シンガポール、イギリスでは63~64%、アメリカではなんと71%に及んでいる。

新型コロナは怖い。が、人はウイルスに感染しないことを目的に生きているわけではない。「人生を謳歌する」ということなしに、生きていけない生き物なのだ。

5月31日、スペインの観光地、ラス・パルマスのビーチで撮影されたというロイターの写真だ。完全に芋洗い状態で、老若男女がマスクなしに海水浴を楽しんでおり、体を密着させているカップルもいる。ちなみに、この写真が撮影された31日の新規感染者は96人。死者数は2万7127人となっている。

先ほどのトリップアドバイザーの調査で「旅行先を決める上で今後重要になることは?」に対して、ほぼすべての国で、新型コロナの感染者数が減少していることや、公衆衛生、マスク着用などの規制が行われていることを挙げた人の割合が多くなっている。
日本は感染爆発もしていないし、死者も欧米に比べるとケタ違いに少ない。マスクはもはやマナーとして定着しているし、道路、公共施設、飲食店の清潔さは世界トップレベルだ。「ウイルスが心配だけど海外旅行もしたい」というニーズにハマる国なのだ。
中国で「新型コロナウイルス肺炎の終息後に行きたい国」を尋ねたところ、「日本」と答えた人の割合が44%と、2位の「タイ」(12%)を大きく引き離してトップになっている。

「日本の観光業の未来は明るい」と考える理由にもう1「自然体験」がある。
 雄大な自然をツアーなどで体験する、「アドベンチャーツーリズム」が世界的に大人気だ。『Adventure Tourism Market – Global Opportunity Analysis and Industry Forecast,2017-2023』によると、市場は2016年度に約49兆円だったが、2023年には147兆円まで拡大すると予測されている。
成長の背景にある要因として「単価が高い」ということが大きい。
『Global Report on Adventure Tourism 2014』によれば、アドベンチャーツーリズムの旅行者の消費額は約3000ドル。現在の訪日外国人観光客の消費額の2倍以上になっている。

観光庁の『訪日外国人の消費動向 2019年年次報告書』によれば、「訪日前に期待していたこと」で「自然体験ツアー・農漁村体験」(複数回答)と回答した外国人はわずか6.3%、多くの外国人にとって日本観光は「日本食を食べること」(69.7%)や「ショッピング」(52.6%)というイメージだ。

観光庁が20の国籍・地域の人々を対象に実施したウェブアンケートでは、海外旅行の際に「自然に由来する体験」を求める人が多い。
しかし、日本にも豊かな自然があるということがまだアピールできていないといい、「環境整備」がなされていないことが大きい。日本人旅行者も、風光明媚なスポットで写真を撮ったり、地域の名物を食したりするというスタイルが一般的で、「自然体験」という分野はまだマイナーだ。
コロナ禍をきっかけに「3密を避ける」という新しい生活様式が普及したことで、旅行やレジャー先として「自然」を求める人々が増えているからだ。

6月1日、JTBとJTB総合研究所が発表した『新型コロナウイルス感染拡大による、暮らしや心の変化および旅行再開に向けての意識調査(2020)』によれば、「すぐ行きたい」旅行についての質問で、「知人訪問 (24.4%)」の次に多かったのが、「自然が多い」(19.3%)だった。
この調査を裏付けるのが、キャンプ場の盛況ぶりだ。実際、首都圏の有名キャンプ場は、6月の週末はすべて予約でいっぱい。7月も非常に混み合っているという。
各地で「自然体験ツアー」の整備も進んでいる。大自然の中でのトレッキングや、星空を見るツアー、さらにラフティングやカヌーなどが、これまで以上に人気になっていくはずだ。

利用環境が向上すれば、外国人観光客の耳にも届く。中国人観光客にも「モノ消費からコト消費へ」というトレンドがあり、「日本観光はコロナ感染の恐れもなく、雄大な自然を満喫できるツアーが大人気」という流れがくる可能性もある。

「外国人観光客が押し寄せて自然が破壊される!」と大騒ぎをする人がいるが、日本各地の自然は整備する費用がなく、荒れ放題に荒れている。
「エコツーリズム」という概念があるように、本来は海外のナショナルパークのように、観光客から高い入場料をとって、そのお金を自然保護の整備費や人件費にまわさなくてはいけない。
日本の自然保護は税金に依存しているので財政が厳しい。数百円の安い拝観料を徴収するだけで、国から予算を削られてボロボロになっている国宝や重要文化財も同じだ。

たとえば箱根湯本芸能組合は、世界初の「芸者とオンライン飲み会」を開催した。リモートで芸者遊びなどを英語でレクチャーして、参加した外国人は大感激だったという。素晴らしい日本の観光PRだ。
この取り組みは、コロナ禍にならなかったらなかなか実現しなかったのではないか。追い詰められて初めてひねり出された起死回生のアイデアなのだ。
「こんな緊急事態に観光へ行くなんて不謹慎だ」「自粛しない連中をもてなす観光業者もいかがなものか」と怒る人もいるが、現在は「観光」は無くてはならないものだ。

観光業の皆さんにとって、今は非常に苦しい時期だと思う。仕事を失ってしまった人たちも多くいらっしゃるだろう。しかし、皆さんを必要としている人たちがこの世界にはたくさんいる。どうか希望を捨てず、前向きに過ごしていただきたい。