ハワイの人気スポットで予約制導入 オーバーツーリズム解消の成功事例に
(Forbes JAPAN 2023年1月3日)
https://forbesjapan.com/articles/detail/68316

【ホッシーのつぶやき】
各国でオーバーツーリズムが再燃しており予約制導入が進んでいる。ハワイのダイヤモンドヘッドでは2022年5月から事前予約制を導入しているといい、登山に訪れる人が分散し、午前6時から午後6時まで登山客が満遍なく訪れているそうだ。それだけではない。救急要請件数が半減している。そして、これまで地元住民が登山をあきらめざるを得なかったが利用しやすくなったという。
地元住民の利益と観光客の利益が相反しない施策を取らないと持続可能な観光は生まれないという好事例だ。

【 内 容 】

各国の入国規制が緩和され、世界の観光地がふたたび賑わいを取り戻した2023年。観光客が押しかけて大混雑になり、各国でオーバーツーリズムの問題に直面している。例えば、富士山。頂上まで続く登山道には人の列ができ、周辺地域でのごみの増加、公共交通機関の混雑などが生じている。

一方で、私が住むハワイでは、軽登山の人気観光スポット、ダイヤモンドヘッドで2022年5月から事前予約制を導入し、さっそく効果が表れているようだ。オーバーツーリズム解消の成功事例として紹介したい。

ハワイのシンボルで2022年から予約制導入

ハワイを象徴する景色といえば、ワイキキビーチで海水浴を楽しむ人々が映るワンシーンだろう。その背景にそびえ立つのが、ダイヤモンドヘッドだ。数十万年以上も前に起きた噴火によって形成された山で、中央部分はクレーターになっている。

ワイキキから車で10分ほどの位置にあり、なおかつ、標高はわずか約230m。急斜面などはなく、片道30~40分程度で頂上までたどり着ける。頂上からは、ワイキキの街やビーチはもちろん360度の大パノラマを望めるため、たまらない爽快感を味わえるのだ。子どもから大人まで楽しめるアクティビティで、満足度が高く、アクセスのしやさすさでも文句がない観光スポットであることから、富士山ほどではないにしろ、毎年多くの観光客が押し寄せる場所で、コロナ前には1日6000人が訪れたこともあった。

そんなダイヤモンドヘッドで、事前予約制が導入されたのは、2022年5月のことだ。それまでは、開園時間の間ならいつでも好きな時間に訪れて登山できたのだが、あらかじめ予約しなければならなくなった。これは、登山客の混雑を緩和することが目的だ。

予約サイトでは、訪れたい日付と時間を選ぶ。これによって入山する人の数を制限できる。おまけに、予約時に1人5ドルの入園料の支払いをクレジットカードで済ませるため、当日に現金やカードを持っていく必要や、チケットの支払いに時間がかかることもない。観光客にとっては、天候に関わらず事前に予約する手間はかかるが、当日はこれまで以上にスムーズに利用しやすくなっただろう。

予約制導入で表れた2つの効果

このダイヤモンドヘッドの予約制が始まって1年以上が経ち、その効果が見えてきたようだ。まず1つ目が、登山に訪れる人が分散されたことだ。予約サイトでは、登山客が日付とあわせて入山する時間を1時間単位で選ぶシステムになっている。そのため、1日に訪れる人数はおよそ3000人で予約制を導入する前と変わらないにも関わらず、午前6時の開門から午後6時の閉門まで、登山客が満遍なく訪れているそうだ。

混雑が緩和されたことが関係するのか、脱水症状、足首の捻挫、骨折などといった、登山客からの救急サービスの要請件数も減ったという。ホノルル救急医療サービスの統計によると、予約制導入前の2019年には、76件の救急要請があったが、導入後の2022年5月から2023年5月の1年間では、40件と半減。ホノルル消防署に寄せられた登山客の救助要請も、2019年の36件から2023年は18件まで、半分に減少した。

これは、事前に予約を行う観光客は、それだけ「登山に向けてしっかり準備をしている人が多い」ことが関係するようだ。ダイヤモンドヘッドは軽登山のスポットのため、中にはビーチサンダルで登ったり、十分な飲み水を持参しなかったり、前日に飲み明かしたまま訪れたりする人もいる。近所を散歩するようなつもりで訪れると、子どもでも登れる山と言っても、ケガしたり体調不良を起こしたりする人がいるのだろう。

予約制導入による2つ目の効果が、地元住民が利用しやすくなったことだ。ダイヤモンドヘッドの頂上からの眺望は、地元に住んでいる人にとっても、何度でも訪れたくなるような素晴らしさがあるもの。おまけに周辺は住宅地であることから、地元住民もダイヤモンドヘッド登山を楽しんでいるのだ。しかし、あまりにも観光客が多く訪れると、地元住民は登山をあきらめざるを得ない。駐車場がいっぱいになって引き返す地元住民も少なくなかった。筆者自身も、駐車場が満車になって、公園の入口であきらめた経験が複数回ある。

しかし、予約制によって観光客の人数が分散され、さらに78台ある駐車場のうち約20台は地元住民用に確保されるようになった。これによって、地元住民もこれまでのようなストレスを感じることなく、気軽に登山を楽しめるようになっている。

ちなみに、ハワイの住民ならダイヤモンドヘッドの事前予約は不要で、入園料も駐車料金もかからない。観光客にとっての人気観光スポットでありながら、地元住民にとっては身近な公園のひとつでもあり、観光客と地元住民がうまく共存できるかたちになっているのだ。

ハワイの3つの州立公園でも予約制導入を検討

ダイヤモンドヘッドの予約制がうまく機能していることを受けて、他の3つの州立公園でも同様に予約制を導入することが検討されているそうだ。またハワイ州公園局では2023年、170万ドルの予算でダイヤモンドヘッドに新しい歩行者専用道を設置するほか、駐車場を設けることを計画しているという。

2022年は、新型コロナの反動のためか、コロナ前以上に大勢の観光客がアメリカ本土から訪れたハワイ。もし予約制が導入されていなければ、再びコロナ前と同じように毎日のように混雑して、地元住民も観光客もうんざりさせることになっていたかもしれない。

地元住民に行われたハワイ州観光局の最新の調査で、「観光業は諸問題よりも利益をもたらす」と回答した人は52%と、年々減少傾向にある。そして「ハワイの観光業は、利益よりも問題を引き起こしている」という回答の内訳には、「環境破壊」「混雑」「生活費の高騰」「交通渋滞」などが挙げられた。

観光業が主要産業であるハワイだからこそ、地元住民の生活を守りながら、観光業と両立するかたちを模索していく必要があるだろう。