世界のDMOの最新動向を聞いた、「データ分析の人材は世界中にいる、地域にいなくてもいい」、宿泊税による資金調達や意思決定の好事例も
(トラベルボイス 2024年4月8日)
https://www.travelvoice.jp/20240408-155425

【ホッシーのつぶやき】
世界のDMOの最新動向を集めた2023年版は、日本の40団体を含む世界62カ国837団体が協力した調査で「世界のDMOの37%が、今後3年間で調達資金が減る」としたが「日本は47%」という。「米国やカナダでは宿泊税の導入により、DMOの資金調達力が劇的に向上している」ようだ。
宿泊税、日本でも始まっているが、DX化やデータ分析の人材確保のためにも利用できる財源にしていく必要がありそうだ。

【 内 容 】
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日本観光振興協会は先ごろ、「DMO観光地域づくりセミナー〜海外の専門家から学ぶ最新の観光潮流とデータ戦略」を開催した。観光地域診断ツール「DestinationNEXT」を開発したネクストファクター社CEOのポール・ウィメット氏、ハワイ州政府の観光データ分析責任者であるジェニファー・チュン氏が登壇。両者は海外DMOにおけるデータ活用の取り組み事例を紹介するとともに、日本で課題となっているデータ分析人材の確保について、「日本国内や地域に限定せず、世界的な広い視野で探すべき」とアドバイスした。

海外で効果を上げている宿泊税の導入
セミナーの冒頭では、まず、ネクストファクター社のウィメット氏がDMOの世界的な統括団体デスティネーション・インターナショナル(Destinations International)が発表した「FuturesStudy2023」の内容についてプレゼンテーションをおこなった。

「FuturesStudy」は、世界のDMOの最新動向と戦略をまとめたもの。過去に2014年、2017年、2019年、2021年と4回の調査を実施。直近の2023年は、日本の40団体を含む世界62カ国837団体が協力する最大規模な調査となった。この結果に基づき、ウィメット氏は世界のDMOが関心を寄せる動向として、「1位は人工知能(AI)の加速度的普及、2位はユニークで本物の旅行体験」をあげた。ただ、世界と日本の傾向はおおむね同じとはいえ、世界より日本のDMOが関心を寄せている内容について、「あらゆる立場の旅行者のアクセシビリティ向上」(2位)、「より求められる活動的なアウトドア体験」(6位)、「法人旅行の大幅な減少」(12位)が挙がったと報告した。

また、DMOが重視している戦略の1位は世界、日本ともに「現在の資金レベルを維持するための財源確保」。日本で世界より上位となったのは、5位の「地域社会との関係強化」、7位の「収入源の多様化による資金レベルの向上」、8位の「人材を維持する取り組みの強化」だった。

これらを受けてウィメット氏は、「世界のDMOの37%が、今後3年間で調達資金が減るリスクがあると回答したが、日本は47%と財源確保に対する危機感がより高いことが浮き彫りになった」と指摘。解決策として「米国やカナダでは宿泊税の導入により、DMOの資金調達力が劇的に向上している」と述べた。今後3年間で重要なDMOの役割として、世界的にデータ調査と分析が重視されている結果も挙げ、「未来のDMOは資金調達、テクノロジー、ガバナンス、専門家育成の4つの取り組みが必要」と語った。

ハワイ州の「シンフォニー・ダッシュボード」とは?
一方、ハワイ州政府のチュン氏は、観光に関するデータ分析をステークホルダーのマーケティングにおける意思決定に役立てている事例として、2020年からハワイ州政府観光局(HTA)が導入した「シンフォニー・ダッシュボード」を紹介した。

ダッシュボードとは、複数の情報をまとめて表示するツールを指す。HTAのシンフォニー・ダッシュボードは「ハワイ州の概要」「各島の概要」「宿泊施設の概要」「来訪者に人気の島ごとの観光地」「住民に人気の島ごとの観光地」「人気観光地」の6カテゴリーに分かれている。チュン氏は導入の理由について、「データ自体は以前から集めており、プレスリリースやエクセルで公表していたが、多くのステークホルダーはそれらを見ていないのが現状だ。メールや電話で寄せられる質問はほぼ共通しているため、回答をわかりやすく見せたいと考えた」と話した。

たとえば、カテゴリーの1つである「ハワイ州の概要」では、ハワイ州全体の渡航者数や支出額、平均滞在期間、渡航者の多い上位の海外マーケットなどの基本的な情報に加え、州全体の人気観光地トップ30を掲載。観光客だけでなく、住民についての調査結果も公表している。「宿泊施設の概要」ではホテル、短期賃貸(民泊)、タイムシェアの3種類について稼働率、販売済宿泊室数のデータを掲載、「人気観光地」では、曜日別の渡航者数の割合も明らかにしている。

掲載データは基本的に月ごとに更新し、調査の翌月に公表しているが、毎週更新するデータもある。そのひとつが消費者の意向調査結果だ。

チュン氏はその理由について、「消費者の意向は非常に変化しやすいため、月ごとではタイムラグが出る」と語る。航空座席供給数のデータもコロナ禍以前は月ごとの調査だったが、コロナ禍後は運航スケジュールの変更が多いため、毎週調査して公開している。

世界中から人材を集める視点を
さらに、東京都立大学教授の清水哲夫氏がファシリテーターを務めたトークセッションでは、会場やオンライン視聴者との質疑応答もおこなわれた。

「日本はデータを集められても分析できる人材が乏しいという課題がある。ハワイではどのように人材確保しているのか」という質問に対し、チュン氏は「ハワイ州は観光地として魅力があるため、そこで生活して働きたいというニーズも多く、優れた人材確保も難しくない。データ分析に長けた人材は世界中にいる。日本は非常に魅力のある国で、住んで働きたいと思っている人たちが多く、世界中から集めることが可能だと思う」と述べた。

この回答にウィメット氏も強く賛同し、「データ分析を行う人材は地域にいなくてもいいのではないか。フルタイムでその場所に住んでいることに固執する必要はない。パートタイム、リモート勤務によるオンラインでサポートもいい。このように考えると、人材は豊富と言える」と発想の転換を促した。清水氏もこれらの発言に同意し「単独のDMOで専門スタッフを雇うのではなく、複数のDMOでシェアするという考え方もある。データ専門の人材市場を作る必要もある」とまとめた。