エリアセッション:九州
九州を盛り上げる観光人材の増やし方
(インバウンドサミット2021 2021年6月19日)
https://www.youtube.com/watch?v=EXXRuQCDYOo&t=10s

・村上 カオ : 公益社団法人 熊本県観光連盟 タイ市場誘致対策アドバイザー
          https://kumamoto.guide
・齋藤 潤一 :地域商社こゆ財団 代表理事
          https://koyu.miyazaki.jp
・田村 大 : 株式会社UNAラボラトリーズ/リ・パブリック 代表取締役
          https://unalabs.jp/company/
・勝 眞一郎 : 一般社団法人あまみ大島観光物産連盟 プロジェクトリーダー
          https://www.amami-tourism.org/natural-heritage/

【ホッシーのつぶやき】
今回の登壇者3名は、地域に深く入り込んで活動されており、「地域のあり方」「地域の魅力の見せ方」といった本質をついた魅力的な話が多かった!
・地域の方は「内の地域には何もない」と言うが、「何も見ていないだけ」
・地域に「人材がいない」じゃなく、地域の人材に「ここで仕事をしたいと思わせる仕事を作らないとダメ」
・観光のためではなく、「地域づくりのために観光を利用する」
・「こゆ財団」のビジョンは「世界一チャレンジしやすい町を作る」、そこに共感する
・日本全国の誰もリスクを取らない。プロデュース側も勝負しないし、地元も勝負しない
・最も必要な観光人材は「地域を熱狂的に愛している人」

カオ:本日のテーマは「九州を盛り上げる観光人材の増やし方」です。
 進行を務めさせていただきます村上カオと申します。熊本県の南阿蘇に住んでいます。タイ出身で13年前に日本に来て、昨年末までMATCHAでインバウンド推進スペシャリストとして活動し、インバウンドサミットの運営事務局もさせていただきました。今は個人事業で、熊本県観光連盟でタイ市場誘致対策アドバイザーをさせていただいています。それでは皆さんの自己紹介お願いします。

勝:スペシャリストプロジェクトマネジメントをやっている勝と申します。
 サイバー大学というインターネットの大学教授をし、総務省の地域情報化アドバイザーとして自治体の方にITを使ったプロジェクト改革のコンサル、業務改革のコンサルティング、離島経済新聞社の理事、薩摩リーダーシップフォーラムの理事、奄美大島観光物産連盟のプロジェクトリーダーをやっています。
 奄美大島と神奈川藤沢市の二地域居住で、コロナ前は2週間2週間在住していましたが、今はほぼ奄美にいます。奄美では仕事のかたわらサーファーやスキンダイバーとして遊んでいます。

田村:「UNAラボラトリーズ」と「リ・パブリック」という会社の代表をしております田村と申します。
 「リ・パブリック」は、企業や自治体でイノベーションが起こる環境作りをする会社で、「UNAラボラトリーズ」は、福岡県八女市にある地域文化商社「うなぎの寝床」との合弁で、2019年に立ち上げた会社です。「うなぎの寝床」は久留米絣を使った“モンペ”で有名になった会社で、農作業着のイメージだった久留米絣のデザインやパターンを活かして、新しい衣服にリブランディングしました。
 「UNAラボラトリーズ」では、九州の文化を深く知って体験していただくオリジナル企画で、例えば、型染めを取り入れられている「染物工房よつめ染布舎」さんの伝統工芸を取り入れた企画をしています。「TRAVEL UNA」という九州の文化とクラフトを伝える日英のバイリンガル旅行誌も出版しており、“ツーリズムを通じたまちづくり”を自治体さんにコンサルティングしています。また、福岡県八女市の古民家を改修した宿泊施設を今年9月に立ち上げます。地域の文化を掘り起こして、編集し直して、体験や情報に落とし込んで、地域と都市を結んだ新しい循環を作っています。

齋藤:僕は「地方から世界の地域課題を解決する起業家」として紹介されています。以前、アメリカのシリコンバレーの音楽配信会社で製品開発責任者をしていました。その会社の売却により帰国し、東京の表参道でデザイン会社を起業したのですが、2011年の東日本大震災をきっかけに、自分のスキルと経験を活かした地域づくり活動を始めました。当時は「シリコンバレー流地域づくり」として、日経新聞やなどで紹介され、多い時は全国で約10カ所の地域プロジェクトをやっていました。これらの活動を評価いただき、宮崎県新富町が観光協会を解散して稼げる地域商社「こゆ財団」を設立される時に代表に就任しました。この財団では「一粒千円のライチ」を開発して、ふるさと納税で50億円を集めたり、起業家がどんどん移住してきたりして、国の地方創生優良事例に選ばれたりしました。農業の課題を解決するための「AGRIST」というロボットベンチャーも立ち上げました。
 またここは、お茶の町なので「茶心」というお茶の心をテーマにした茶室ホテルもやっております。特徴は23畳のヨガ瞑想スペースです。お茶、ヨガ、瞑想を組み合わせ、街全体をホテルとして捉えて、近隣レストランと連携した事業をしております。

カオ:皆様それぞれが魅力のある事業されていて、九州に必要とされている人材だと思っております。早速ですが、今一番、必要とされる観光人材、不足している人材、地域を盛り上げるために必要な人材についてお伺いします。

田村:観光人材というと“受け入れのための人材”になりがちですが、それ以前に観光を事業として考えた場合、地域を意識的に売り出すことを考えていない方が多いと思います。観光だとマーケットインが主流で、プロダクトアウトは古いとなりがちですが、プロダクトアウトもできていないと思います。地域のオリジナリティとか魅力を深掘りして、伝えていく掘り下げ方が甘いのです。僕達は、文化ツーリズムやクラフトツーリズムを軸にやっているので、留米絣の話で言うと、久留米絣の織り手さんが文化の担い手ですが、織り手さんがどう織って、久留米絣の現場がどうなっていて、どういう魅力を提供できるのかを作っていこうとしています。

カオ:勝さん、さっきの話を踏まえて深掘りしていただければと思います。

勝:私は製造業に19年いたので、観光を見ると産業構造ができていないと感じています。例えば、製造業のプロセスというのは、基礎研究があり、試作品を作り、工場で量産して、それをデリバリーし、お客さんの評価いただいて、アフターサービス、CSをするという一連の流れがあるのですが、観光は、営業と、工場での生産と、オペレーションだけで、クラシックな産業構造なので、日本の観光産業には全体構造ができてないのだと改めて思いました。

カオ:奄美におられて、だからこそこういう人が足りないとか、もっとフォーメーション的にできてないという具体的な話はいかがでしょうか?

勝:職種で言うとデータアナリストです。データで語る人がいないということ、そうゆう人を重要視してないというか、そこにお金をかけるという価値を見出していないと思います。いろいろな事業があるのでアンケートは取りますが、それを分析する人がいないので、次に反映することができません。奄美は空港と港でデータを取れるようになっており、満足度調査もしますが、分析があまり詳しくないので、もったいないと思います。

カオ:アンケートの主観的な意見を見て、平均値が去年より上がりました。下がりました。パチパチパチで終わっています。斎藤さんが事業をやる中で、こういう人材がいて良かったとか、増やしたいなあと思うのは、どういう人材ですか?

齋藤:結論から言うと、人材は「地域を熱狂的に愛している人」です。お客様の立場に立ってサービス提供する人は絶対必要で、その上で地道にコツコツやる人も必要なのですが、その全てを凌駕するのが熱狂的に地域を愛している人です。うちの「茶心」にも素人のホテリエみたいな人がいますが、めっちゃお茶が好きなのです。誰にも負けないぐらい好きで、そこが大事なポイントだと思います。地方のインバウンドの観点から言うと、行政のが単年度予算なので事業をやって終わりとか、データを取って終わりと、報告書がゴールになっているので、そのような自治体は決して良くならないと思います。
 「茶心」もプロ集団ではないのですが、地元を知り尽くしている支配人がいて、コロナ前で1泊5万するのですが、台湾、マカオ、香港から年末年始に宿泊に来ていただいて、1棟貸しで10万円を落としてくださいます。人口17,000人、1周15分ぐらいの町ですが、そんな町でもしっかりピンフォールマーケティングが成り立っています。結論から言うと、マーケティング的視点は僕が担っていますが、その上でやっぱり地元を愛している熱狂的なホテリエとの両軸が必要だと思います。

カオ:観光協会や自治体は、2年とか3年で交代してしまうので、プロジェクトを継続させることが難しいので、皆様のように外部人材として地域を巻き込むのも人材活用に繋がります。外国人も関係人口として関わりを増やすことで、地域に共感できる人材になることができます。私のように熊本に住みたいですという人を増やせれば、人材の確保につながります。

田村:観光協会って機会の分配団体とか、利益の分配団体になっていて、だから地域の中で平等に送客しあうというような話になりがちです。それが結果的に産業につながらないないのだと思います。人材もいっぱいいるけれど、給料が安すぎるとか、フレキシビリティがないとか、条件が整ってなさすぎる所が問題だと思います。

カオ:人材にはお金をかけないけれど、プロジェクト自体にはお金をかける事も多く、本来ならしかるべき人を雇って人材育成することで、効果を出すことができますが、人材に力を入れない事に疑問を持っています。「人材が欲しいのでカオさん紹介してもらえませんか」と言われることがありますが、給料が安いので、仕事なら東京ですることになります。このような状態を改善するヒントをいただけたらと思います。

勝:奄美群島には5つの島がありますが、今、奄美大島全体でエコツアーガイド認定試験を作ろうとしています。認定ガイドと一緒でないと世界自然遺産のスポットに入れないというルールを作り、地域通訳案内士制度を作って、有料ガイドで案内するという制度を作ろうとしています。
4年前にガラパゴス諸島のチャールズダーウイン研究所の方が来られました。ガラパゴス諸島は人が入り過ぎて、環境が破壊され、世界自然遺産を取り消すと言われてから盛り返したとのお話を聞きました。今、ガイドはガラパゴスの人じゃないとできません。世界遺産のガイドになれば給料も良いので、地域を守る産業にもなるし誇りも持てます。「あの兄ちゃんみたいにガイドになりたい」との好循環が出来ればと思っています。

田村:齋藤さんがおっしゃったように、地域を愛して、地域を知り尽くしいている人は、地域の人が多いように思います。一方で、齋藤さんは東京から優秀な人材を連れてきておられますが、外から来た人で地域をめちゃくちゃ愛する人もいらっしゃいますか?

齋藤:新富町は4年前に観光協会が解散し、当時36歳だった僕みたいな若造を財団のトップに置くというリスクを議会と前町長が取ったことが大きかったです。要は、日本全国の誰もリスクを取っていないのです。プロデュース側も勝負をしないし、地元も勝負をしない、そしてただ衰退していく。我々は、写真ひとつにもお金をかけて勝負しているわけで、勝負しているからこそ持続可能にしようと思います。本気でぶつかるからこそ自治体も動いてくれます。だからこそ、それに共感する若者が移住してきて、そのエネルギーの連鎖みたいな動きがあるのが新富町なのだと思います。

田村:地元人材はどんな感じですか? 元々、若い人も多いわけじゃないと思うのですが?

齋藤:人材の半分が地元で半分が移住した人です。地域おこし協力隊も新富町全体で40人いて、「こゆ財団」で勤務しているのはその内10人です。「こゆ財団」のビジョンは「世界一チャレンジしやすい街を作る」となっており、そこに共感して来てくれる人が多いのだと思います。ただ凄いリスクを背負いながらやっているので、正直しんどいです。

田村:確かに、今はシンドイですね…

齋藤:コロナ禍ということでクラウドファンディングを活用しました。返礼品として宿泊権を購入していただいたのですが、「泊まりに行きたい」と言う需要があることが確認できた点も良かったです。

田村:地域のインバウンドの観光で欠かせない問題に、言葉の問題があると思うのですが、言語対応に関してどのように取り組んでおられますか?

勝:奄美はインバウンドがあまり多くないので、お客さんが通訳を連れて来るのが多いのと、旅慣れている外国人が多いので何とかなっています。一方で、奄美の観光業界に向けて英語メニューを作りましょうとか、英語で接客するビディオを作ったりしています。緊急事態宣言中でも、日本在住の外国人の方が来ており、沖縄には飽きたという感じで、奄美という穴場に来てもらえるようになっています。その外国人は日本語もベラベラでした。

齋藤:「誰に来てもらうか」ということが重要で、僕らの「茶心」では金額でセグメント分けを考えました。僕らはどちらかというとピンホールマーケティングなので、日本語が喋れなかったとしても、じゃあアプリでやろうとか、逆に外国人に日本語を学びながらやってもらおうという考え方です。
 昔、インバウンド大歓迎という時代がありましたが、今は一定の閾値を越えたので、「誰に来てもらうのか」とか「誰に生涯顧客になってもらうのか」が重要になってきており、言語のコンフリクトはかなり減ったと思っています。

田村:福岡にいると英語が話せない、英語で対応しないと通じないという人が多いのですが、八女市(3万人)のような小さな町でも、商社で海外事業をやっていたとか、英語で仕事をしていましたという人材が結構いると気付くようになりました。周りにあるリソースを探っておくことが重要だと思います。

カオ:キレイな外国語で伝えるだけでは「本質」は伝わらないので、言語ができる、できないじゃなくて、「本質を伝える」ことが観光の一番のポイントだと思っています。地域を知り尽くすという所も必要ですが、本質を理解できているからこそ伝わると思うのです。

田村:自身がサイクリングで走っている所をカメラマンに撮ってもらって、インスタグラムに上げられる方が来られたのですが、そのインスタを見た方から、カメラマンと一緒に阿蘇を走りたいというニーズもあります。その方は英語を喋れなかったのですが、これでも良いのだと感じました。阿蘇を1週間走って100万円を払ってもらいました。言語の問題だけではないなぁと感じました。

勝:奄美でもサイクルツーリズムが盛り上がっています。これまで普通のサイクリストも来ていたのですが、奄美は日本で2番目に大きな島なので、広いし、高低差があります。去年、電動バイクを10台入れて、今年も40台追加して、電動バイクを楽しめる地域を目指しています。
今、こちらの集落から隣の集落まで電動バイクで行って、サップに乗って帰るという企画を進めています。結構大変ですが楽しいので設計中です。

齋藤:旅人は非日常体験をしに来ているので、外国人が来られても英語が堪能なら満足度が上がるわけではなくて、非日常体験をどう提供するかが凄く重要であり、これからは「人のつながり」の情緒価値みたいな所が大事になると思っています。
 僕の友人が瀬戸内にアマンダの創業者のエイドリアン・ゼッカさんと「あずみ」という凄い旅館を建てたのですが、彼が言うには「宿は人なり」であり、ゼッカさんも「日本の旅館というカルチャーにとても価値を感じて」瀬戸田という小さな島に旅館を作られました。結局 “ヒューマン トゥ ヒューマン”こそが、今後のインバウンドの重要なキーワードだと思います。

勝:高付加価値化で言うと、その土地とかコンテンツもあるのだけれど、斉藤さんの入れるお茶を飲みに宮崎に行きたいとか、あの女将さんに会うためにあの旅館に泊まりたいとか、あのおじいちゃんとあの情景で一緒にビールを飲んだのが忘れられないとか、そういう方向に向かっていると思います。

田村:僕はテキスタイルにも関わっているのですが、ラグジュアリーブランドが大きく変化してきています。昔は希少性だとか、誰が持っているかみたいな事が価値だったのですが、最近は、自分がどう社会とつながっているか実感できるという事にお金を払うふうに、価値軸が変わってきています。
 これからのラグジュアリーブランドは、地球の未来に結びついていない所や、社会に貢献していない所は評価が落ちると思います。

齋藤:震災以降のマインドとして、地域への貢献とか、日本への貢献とか、応援したいという気持ちがあると思っています。僕の場合、友人が作った宿に、地域づくりの人たちを集めて行き、みんなで語り合って、しっかりお金も落として、PRもして帰って来ちゃう、そうして宿がまた頑張って自分の思い出を作っていくという関係です。キングコングの西野さんがやられているように、宿と自分との関係性を作り上げていくことが、国内のみならずインバウンドも含めて重要なファクターになるのだと思います。

田村:コロナ前にオーバーツーリズム問題が世界的に議論されましたが、その時、コペンハーゲンの観光客が「ジ・エンド・オブ・ツーリズム(ツーリズムの終焉)」というビジョンを作りました。面白いと思ったのは、「もう観光客はいらない」「一時的な市民としてコペンハーゲンに来て下さい」というのです。例えば、「教会の食堂で市民と一緒にご飯を食べて、祈りの時間を共有しましょう」みたいな話で、なるほどと思いました。いわゆる観光消費という話ではなくて、地域と結びつくことが価値だという話に変わってきていると思います。

カオ:残り5分になりましたので“まとめ”に入りたいと思います。結論は、皆さんのような人材が、プロデューサとして地域を理解する人なので、今後どのように進めることが重要かについて、お話しいただければと思います。

齋藤:「自分たちの町を好きになりましょう」というシビックプライドはすごく重要です。地域の方は「内の地域には何もない」と言いますが、それは「何も見てないだけ」と思います。僕達は、1粒1000円のライチや、「茶心」という宿を作っていますですが、元々あったものを一生懸命に可視化したものに過ぎません。インバウンドというと外貨を稼げというような話がありますが、そのような所には誰も行きません。それよりも自分たちの地域の魅力とか良さを認識していることを、外から見た時人に魅力的に見えるのだと思います。「うちの地域は何もない」ではなくて「あるもの探し」して、地域を探求していただきたいと思います。

田村:地域でよく聞く言葉は「人材がいないからできない」ですが、「人材がいない」からじゃなくて、人材は意外といると思うので、そういう人材に「ここで仕事をしたいと思わせるような仕事を作らないとダメだ」と思うのです。人材が先にあるのではなく、仕事が先にあるということを作っていくことが重要だと思います。地域の中でもツーリズムは伸びる可能性があると思います。九州というのは可能性がある場所なので、連帯してやって行きたいと思います。

勝:「観光による地域づくり」という言葉ですが、観光のためではなくて、「地域づくりのために観光を利用する」という感じで、地域の人にどんどん携わってほしいと思っています。

カオ:1時間でここまで濃厚な話ができたのが嬉しかったです。アーカイブも残されますので、何かあればコメントをいただければと思います。今日はご参加いただきありがとうございました。