時代祭「信教の自由」で揺れた自治会費の行方 伝統存続へ〝軟着陸〟案
(産経新聞 2023年7月日)
https://www.sankei.com/article/20230704-JMUTSXKKARN5JE5JDQQU5INXF4/

【ホッシーのつぶやき】
自治会費を伝統行事参加費に当てる差し止め訴訟、関係者の皆さんはご苦労されたとことだろう。慣例だけでは解決しない祭礼行事への参加は全国に波及しそうだ。結論として、自治会費と伝統行事参加費を分離されたのは良い判断だと思う。
伝統行事を継続するための費用捻出も難しくなっている。費用捻出の新しい方策も検討しなくてはならないだろう。

【 内 容 】
京都三大祭りの一つ、時代祭の行列参加を巡り、費用の一部を自治会費から積み立てていた自治連合会の一つに対し、住民の一人が「信教の自由」を掲げ、支出の差し止めを求める訴訟を起こした。確かに京都には数多くの寺社や関連祭礼があり住民との結びつきが強い半面、それが伝統行事か宗教行事なのか、といった境界はあいまいな部分も多い。訴えに揺れた末に自治連側が〝軟着陸〟させるために下した結論とは。

地域の絆、その一方で

「私たちの地域だけでなくどこでも起きうる問題。今後も行列への参加を続けていくため、こうした形にできたことは良かった」。JR京都駅の北側、西本願寺と東本願寺の間に位置する植柳(しょくりゅう)自治連合会(京都市下京区)の宇野健藏(けんぞう)会長(75)は、ほっとした表情でこう語った。

約700世帯が加入する同自治連は四半世紀に1度のペースで長年、時代祭の「時代風俗行列」の一つ、徳川城使上洛列に参加してきた。コロナ禍での中止を経て昨年10月に行われた行列では代表の約60人が参加。多くの住民も裏方として行列を支え、地域の絆を強めたという。

ただ祭りを前にした昨夏、自治連は京都地裁にある訴訟を起こされていた。原告は自治連に加入する住民の男性。訴えの内容は「行列は平安神宮の祭礼の一つであり、自治会費からの支出は憲法が保障する信教の自由に反する。支出の差し止めを求める」というものだった。

多様な意見を尊重

自治連によると、行列の参加には一定の費用がかかるため、任意で住民から協賛金として計約500万円を集めていたほか、自治会費から毎年約10万円を基金に積み立てていた。男性が問題視したのはこの積み立ての部分。自治連がある地域には寺関係者も多いことなどを挙げ、「お寺の門徒さんは本来は神社の祭礼にお金を出すことはしない。自治会費から出すのはおかしい」と主張していた。

行列への参加や積み立ての運用は長年、地域の慣例として行ってきた。それだけに自治連側は訴えられた当初、戸惑うばかりだった。

しかし関係者で話し合いを重ねる中で、多様な意見や考えを尊重しつつ、今後も地域の大事な行事である行列に参加する手法を模索。最終的に時代祭に関する組織と会計を、自治連から分離・独立させることを臨時総会で決定した。

具体的には年間1800円だった自治会費を1500円に変更。差額の300円は行列への参加などに充てる費用として、住民が任意で支払うかどうかを判断できる形にした。こうした動きもあり、訴訟は今年3月、和解が成立した。

人口減と問題意識

原告だった男性は「『訴訟なんかするな』という声の一方で、『よくぞ言ってくれた』という声もあった」と振り返り、「組織と会計の分離をするという決断は大きい。自治連のみなさんには敬意を表する」と語った。一方の自治連の幹部は「地域のもめごとを大きくせず、今後も持続可能な形にしていこうという思いだ」と述べた。

全国的に人口減少や地域住民の入れ替わりが進む中、京都に限らず、自治会費の使途の透明性や地元寺社の祭礼との関係性などに問題意識を持つ人は少なくないだろう。今回の訴訟の行方には他の自治会関係者も関心を寄せていたといい、宇野会長は「一つの解決の形として、われわれのやり方を知ってもらえれば」と話した。

■時代風俗行列 平安神宮の創建を祝い明治28年に始まった時代祭の最大の見せ場。明治維新から江戸、鎌倉、延暦など8つの時代の人物などに扮した市民ら約2千人が京都市内の約2キロを練り歩く。新型コロナウイルス禍を経て昨年10月、3年ぶりに実施された。(杉侑里香)