「京都の観光客分散へ分析を」 京都先端科学大・カー教授
京都経済特集 インタビュー
(日本経済新聞 2023年7月26日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF077B70X00C23A6000000/

【ホッシーのつぶやき】
アレックス・カー氏の観光地の管理手法は明確だ。
・入場者の上限設定や入場料の見直し、予約制度の導入
・地元の市民は安くする
・季節や曜日、時間帯に、どのくらいの観光客がどんな目的で来ているのか調査
・良質なガイドの育成。訪日客はバカンスに来ているので、簡潔に伝える
オーバーツーリズムは世界中で問題となっている。成功例はなく、どこもトライ&エラーの連続だという。日本もトライ&エラーの挑戦が必要だ!

【 内 容 】
京都の街に観光客が戻り始めた。インバウンド(訪日外国人)の回復が歓迎される一方で、新型コロナウイルス問題前のオーバーツーリズム(観光公害)の再現も懸念されている。観光分野の著書を持ち、2023年4月から京都先端科学大学の教授を務める東洋文化研究家のアレックス・カー氏に京都における観光管理の現状や課題を聞いた。

                東洋文化研究家のアレックス・カー氏

――訪日客が戻ってきました。京都では北部や南部地域への誘客といった観光の分散化で混雑回避を目指しています。

「観光の分散化は大賛成だ。しかし訪日客の京都滞在はわずか1日や2日で、行きたい場所も決まっており、旅程は簡単には変えられない。金閣寺や竹林の小径(こみち)には、いずれにせよ観光客が来る。こうした著名な観光地をどう管理するかを考えるべきだ」

――観光管理にはどんな手法がありますか。

「入場者数の上限設定や入場料の見直しだ。時期によっては予約制度を取り入れてもいいかもしれない。一律の制度にせず地元の市民は安くするといった融通が利くシステムが管理の技術だ。観光客が来過ぎてしまうと地域生活にダメージを及ぼすほか、観光客にとっても文化を十分に学べない」

――京都の観光地はどのような対応をすればよいですか。

「人数制限といった管理の前には、まずは調査をすべきだ。季節や曜日、時間帯などに分けて、どのくらいの数の観光客がどんな目的で来ているのかを把握して分析しなければいけない。行政や寺社が協力して、例えば1年ほどかけて調べれば、どうすべきかがみえてくるのではないか」

――参考にすべき海外の事例はありますか。

「オーバーツーリズムは世界の観光地で課題となっている。成功例はなく、どこもトライ&エラーの連続だ。何もしなくても観光客が来るので誘客のPR予算を観光管理に充てる欧州の国や、観光客を減らしつつ単価を上げる方針を検討する地域もある。日本はすでに人気の旅行先なので、観光客数で『何万人を目指す』という目標を持つことは無意味だ」

「海外と比べると、日本には良いガイドが少ないと感じる。『この建物は何年に造られた』という説明ではなく、訪日客は『なんのためにこれがあるのか』『禅とは何か』といったことが知りたい。同時に訪日客はバカンスに来ているので、文化講義を受けるつもりはない。軽く、わかりやすく教えることも重要だ」

――京都先端科学大ではどんなことを教えますか。

「秋から始まる『先端ツーリズムコース』の少人数の学生を中心に観光の管理技術などを教える。日本では『技術』というと精密機械を想像するが、ホスピタリティーの世界にも先端ノウハウがある。こうした技術が日本では普及していない。学生に教えたかったので、大学から打診があった時に喜んで引き受けた」

(聞き手は京都支社 大平祐嗣)