2023年どの国の人がどの都道府県に宿泊しているのか? ~2023年宿泊旅行統計調査を少し深堀りしてみた~
(中西恭大|インバウンド屋|D2C X 代表取締役note 2024年3月4日)
https://note.com/ynakanishi/n/n48e7cba087d3

【ホッシーのつぶやき】
中西恭大さんは国籍×都道府県での宿泊日数から算出されており、分析が精緻で信頼がおけます。全文をnoteから読まれることをお勧めします。
外国人延べ宿泊者数は、2019年比100%超は10都府県(東京、高知、栃木、福岡、大分、石川、大阪、熊本、福島、京都)。50%を下回る県は7県(三重、島根、佐賀、静岡、鹿児島、鳥取、宮崎)といいます。

【 noteの抜粋 】
月間最大220万MAUを誇る日本最大級の訪日観光メディア「tsunaguJapan」を運営しインバウンド事業を展開している株式会社D2C Xの中西です。厳しいコロナ禍を経て、我々のビジネス環境も大きく変化し、おかげさまで毎日忙しい日々を過ごしています。
先日2月29日に観光庁より、宿泊旅行統計調査の2023年年間速報値が発表されました。訪日客数ではなく、外国人の延べ宿泊数を統計調査で算出しているのですが、実際の訪日数よりも圧倒的に経済的に意味を持っている指標だと思っており、かつ国籍×都道府県での宿泊日数を算出できるなど、非常に有用な調査です。

宿泊旅行統計調査(2023年(令和5年)12月・第2次速報、2024年(令和6年)1月・第1次速報)及び(2023年(令和5年)・年間値(速報値))

そんな中、以下のニュースを拝見し、栃木県はそんなに伸びているのか!という驚きと共に、他の都道府県は一体どうなっているんだろう?という興味がわいてきたため、今回筆を取ることとしました。

栃木の訪日客が過去最多、茨城・群馬も回復 23年速報

目次

  1. 都道府県別の外国人延べ宿泊者数
  2. 国籍別の外国人延べ宿泊者数
  3. 一つの都道府県×国籍の延べ宿泊者数
      東京都×国籍別延べ宿泊者数
      高知県×国籍別延べ宿泊者数
      栃木県×国籍別延べ宿泊者数
      福岡県×国籍別延べ宿泊者数
      大阪府×国籍別延べ宿泊者数
      京都府×国籍別延べ宿泊者数
  4. 一つの国籍×都道府県の延べ宿泊者数
  5. 都道府県別の外国人延べ宿泊者数

まずは、都道府県別の外国人延べ宿泊者数を見てみましょう。2019年比の数値でソートをかけて降順に並べています。

観光庁 宿泊旅行統計調査より作成

宿泊者数の絶対数にかなり差があるので並べて比較することにやや違和感はありますが、2019年比で100%を超過したのは10都府県。一方、50%を下回る回復率の県は7県となり、都道府県単位でみると回復率には顕著な差が出ていることがよくわかります。
先日少し話題になったkkdayのランキングで、先月の春節時期の予約に関するデータにはなりますが、

KKday、「2024年春節 インバウンドに人気の都道府県ランキング」を発表。都市圏の予約数は減少、一方で地方が人気

岐阜県が注目の訪問先として注目されていますが、外国人延べ宿泊者数でみると岐阜県は66.74%とまだまだ回復途上であります。上記報道は春節時のデータになり時期が異なるため一概には比較できませんが、特定のソースや一部データを基にした報道を鵜吞みにすることは注意が必要かもしれません。

  1. 国籍別の外国人延べ宿泊者数

次は、国籍別の外国人延べ宿泊者数を集計しました。先ほどのデータと異なる点として注意が必要なのが、国籍別に数字を確認しようとすると調査対象が従業者数10人以上の施設に対する調査になります。そのため、小規模施設への宿泊者や民泊などの宿泊者は含まれていない数値と考えられます。
下記の表は、国籍別外国人延べ宿泊者数の2023年実績を2019年比を基準として降順でソートし、補足情報として各国の2023年訪日外客数もプロットしています。

観光庁 宿泊旅行統計調査およびJNTO訪日外客統計より作成

19年比で100%を超えたのは12か国と非常に多く、その全ての国が訪日外客数の2019年比における伸びよりも大きく伸びていることが特徴です。全ての宿泊者を網羅しているデータではありませんが、コロナ前に比べると滞在日数が長期化していると考えて間違いないでしょう。特に、カナダ・米国・韓国・シンガポールの4国は、延べ宿泊者数が2019年比で140%以上と驚異的な伸びとなっており、滞在の長期化が顕著と思われます。

一方、気になった点が2つあります。薄い緑色と水色の部分になり、台湾・香港・ベトナムについてです。
まず、台湾・香港についてですが、他の国と比較すると外国人延べ宿泊者数の伸びは限定的な状況です。

台湾(2019年比):延べ宿泊者数: 95.46%、訪日客数: 85.93%
香港(2019年比):延べ宿泊者数: 94.69%、訪日客数: 92.30%
韓国(2019年比):延べ宿泊者数:142.15%、訪日客数:124.60%

2019年比の数値を東アジアの3か国で比較すると、韓国に比べ台湾・香港の延べ宿泊者数の伸びは見劣りがあり、滞在日数はコロナ前と比べて大きく伸びていない可能性があります。一方、逆の見方をすると、韓国からの訪日客は絶対数が伸びていることに加えて、延べ宿泊者数はそれ以上に伸びており、コロナ前に比べて旅行のスタイルが変わっている可能性がありそうです。
2つ目は、ベトナムです。調査対象の20か国の中で、唯一訪日客数の伸びよりも延べ宿泊者数の伸びが下回っているという国です。

ベトナム(2019年比):延べ宿泊者数:94.36%、訪日客数:115.93%

訪日客数は2019年比で115%と大幅に伸びている一方、延べ宿泊者数は100%を下回っております。仮説としては、技能実習生で来日した方は宿泊統計には実数として出てこないやVFRとして家族や友人などを訪れているということが考えられるのではないでしょうか。

  1. 一つの都道府県×国籍の延べ宿泊者数

ここまで大枠の数字を見てきましたが、主な都道府県や2019年比で伸び率の高い都道府県に絞って、どの国の延べ宿泊者数が多いのかを調べてみようと思います。ただし、今回利用している調査結果は従業者数10人以上の施設に対する調査となりますので、全てのデータが網羅されているわけでないことを予めご承知おきください。今回は、東京都・高知県・栃木県・福岡県・大阪府・京都府を抽出して見てみましょう。

東京都×国籍別延べ宿泊者数

ようやく本noteのタイトルに行きつきましたが、まず東京都は、最も驚いたのは米国が1番であったことです。東京都の外国人延べ宿泊者数は、東アジアのどこかかな?というイメージをざっくり持っていましたが、実は米国が一位でシェアも全体の16%を占めているという状況です。また、中国が2番目であったことも個人的には驚きで、訪日の回復は遅れているとはいえ、東京都における延べ宿泊者数で言うと既に全体の2番目でシェアも13%という結果であるということは、東京都で事業展開する方々にとっては重要なインプットかと思います。

観光庁 宿泊旅行統計調査より作成

高知県×国籍別延べ宿泊者数
2019年比伸び率2位の高知県は、全体の宿泊者数は相対的に見て少ないものの、台湾が既に2019年を超過しており、全体のシェアも約42%と非常に高い状況です。高知県は台湾とのチャーター便に力を入れており、それが数字に表れている結果ではないかと思われます。
台湾桃園国際空港と高知龍馬空港を結ぶ週2回の定期チャーター便は、2023年5月から10月までに運航した50便の平均搭乗率は94%とほとんど満席。

栃木県×国籍別延べ宿泊者数
2019年比伸び率3位の栃木県は、2023年の外国人延べ宿泊者数が452,750人泊だったのに対して、国籍別で集計した際の合計は223,190人泊と非常に少なくなっています。考えられる要因としては、従業員10人以下の小規模宿泊施設がコロナ禍で増えた?や民泊施設への宿泊数の増加?、などが考えられるでしょうか。

福岡県×国籍別延べ宿泊者数
2019年比伸び率4位の福岡県は、予想通りではありますが韓国の延べ宿泊者数が大幅に伸びており、全体の約48%とほぼ2人に1人は韓国人が宿泊しています。
一方、タイの延べ宿泊者数が大幅に増加しており、2019年比で235.61%、実数では212,120人泊と全体の5%を占めるまでに伸びています。

大阪府×国籍別延べ宿泊者数
ランキング上位で規模が大きい大阪府も調べてみたところ、中国の延べ宿泊者数は2019年比で36.63%とまだまだ回復途上である一方、実数ベースでみるとシェア約15%で全体の2番目と既に無視できない規模になっていたところが特徴です。回復途上とはいえ、大阪の事業者の皆様は中国人対策はしっかりやるべきでしょう。

観光庁 宿泊旅行統計調査より

京都府×国籍別延べ宿泊者数
京都府も東京都同様に米国が1位となっていました。2019年比でも149%と力強く伸びており、多くの米国人が京都に宿泊されておりました。また、シンガポールも2019年比で184%と非常に伸びており、東京や大阪でも非常に多くの方が泊まっていることを考えると、都市部でのシンガポールの存在感は無視できない規模になっているなと個人的には感じています。

観光庁 宿泊旅行統計調査より作成

  1. 一つの国籍×都道府県の延べ宿泊者数
    基本的には各国の2023年延べ宿泊者数の実数でソートし降順に並び替え、上位20位内に入っている都道府県を列挙しています。

台湾×都道府県別延べ宿泊者数
伸び率としては2019年比で111%と急激に伸びているわけではありませんでした。
意外だったのは福島県でして、2019年比で157%と大幅に延べ宿泊者数を増やしており、非常に注目です。コロナ禍での活動が実を結び、福島空港と台湾のチャーター便は運行が継続されるなど、今後の成長が期待されます。

観光庁 宿泊旅行統計調査より作成

米国×都道府県別延べ宿泊者数

米国は、全体の約50%が東京都で宿泊するという状況で1極集中になっています。しかし、コロナ前もシェアとしてはほぼ同じとなっており、実際に訪日する数が急速に増えてきていることから影響力が大きくなっています。コロナ前と比較して沖縄・福岡・石川が2019年比で大幅に延べ宿泊者数を増やしており、沖縄はVFR、福岡はニューヨーク・タイムズ効果?、石川は金沢の認知度がかなり上がっているとエージェントから聞くのでその影響か?

観光庁 宿泊旅行統計調査より作成

中国×都道府県別延べ宿泊者数
中国はコロナからの回復が遅れているため、2019年比で100%を超える都道府県は一つもありません。ただ、その中でも千葉県・愛知県・静岡県・沖縄県の延べ宿泊者数は激減しており、成田空港・セントレア空港・静岡空港・那覇空港など中国からの直行便が就航していたが回復が遅い県は、顕著にマイナスが出ているかな?という印象です。

観光庁 宿泊旅行統計調査より作成

シンガポール×都道府県別延べ宿泊者数
シンガポールは、石川・富山と北陸エリアが伸びているのに加えて、静岡県が2019年比で260%と非常に延べ宿泊者数を伸ばしております。
また、沖縄と広島は2019年比で大きく落ち込んでおり、恐らく直行便の就航が無くなってしまったことが大きく影響していると考えられ、今後の就航再開に期待です。

観光庁 宿泊旅行統計調査より作成

まとめ
いかがでしたでしょうか?今回はかなり抜粋して一部のデータのみにフォーカスしてまとめておりますが、全体を通して感じたことは、訪日外客数統計に加えて、外国人延べ宿泊者数の統計を細かく分析することの大切さです。
福岡県でタイ人の延べ宿泊者数が増えていることや、高知県の台湾人延べ宿泊者数が増えている≒施策の成果が明確にでているということは、この統計を深堀りしないと分からなかった結果です。