【私の視点 観光羅針盤 388】 ふるさと納税と宿泊税 石森秀三
(観光経済新聞 2023年7月10日)
https://www.kankokeizai.com/【私の視点-観光羅針盤-388】-ふるさと納税と宿泊税/

【ホッシーのつぶやき】
21年度の「ふるさと納税」は8300億円で、08年度の100倍超に拡大し、「宿泊税」は地方自治体の条例で定め、総務相の同意が必要だが、観光の自主財源として多くの自治体が導入検討している。
観光船事故とコロナ禍で大きな痛手を受けた北海道斜里町も宿泊税の導入を検討している。一方、斜里町のふるさと納税寄付額は20年度約3千万円、21年度約8千万円、22年度約1億8千万円と増加している。
地方活性化の自主財源として「ふるさと納税」や「宿泊税」を冷静に見守る必要があると石森氏は提言されている。
(私たちNPO立ち上げ時、基調講演いただいた石森秀三先生のコラムを時々紹介している)

【 内 容 】
ふるさと納税制度は2008年に開始され、今年で15年目を迎えた。小泉政権下で04年度から進められた「三位一体改革」で、都市部は税源移譲の恩恵を受けたが、地方は地方交付税や補助金を削られて深刻な打撃を受けた。そのため、ふるさと納税制度は地方に財源づくりの選択肢を増やして、地方交付税を補完し、都市と地方の税収格差の是正に貢献している。しかし大半の自治体は寄付者に返礼品として地場産品などを送っており、返礼品競争が加熱しているため、政府は競争規制を行っている。

 総務省が公表した21年度の「ふるさと納税寄付額」は総額8300億円で、08年度の100倍超に拡大。21年度の都道府県別寄付額ランキングを見ると、北海道が1217億円で第1位、以下、宮崎県463億円、福岡県446億円、鹿児島県400億円、山形県374億円の順。市町村別ランキングでも北海道の紋別市が152億円で第1位、根室市146億円で第3位、白糠町125億円で第4位と最上位を占める。

 一方、宿泊税(観光振興税)は地方自治体の法定外目的税で導入は条例で定め、総務相の同意が必要。02年に東京都が初めて導入し、その後、大阪府、京都市、金沢市、倶知安町、福岡県(福岡市、北九州市)、長崎県などが導入。宿泊税は都市部での導入がほとんどで、町村部では北海道の倶知安町だけである。

 コロナ禍の沈静化に伴って、数多くの自治体で宿泊税の導入検討が本格化している。各自治体は厳しい財政状況の中でなんとか観光予算を捻出する必要に迫られている。少子高齢化に伴う福祉・医療・介護予算の増大や老朽化する公共施設の更新に対応しながら、観光客を増やすための諸施策を展開する安定的な自主財源として宿泊税が期待されている。とはいえコロナ禍の長期化で宿泊業者は大きな打撃を受けており、宿泊税導入は料金値上げに直結すると共に、宿泊業者が徴税の最前線に立つために慎重論が根強いのも事実だ。

 北海道の斜里町は世界自然遺産「知床」を有しているが、昨年4月に知床半島沖で沈没した観光船事故の影響やコロナ禍で、19年度の宿泊者数約43万人が22年度は26万人に減少。そのため斜里町は知床観光再興に向けて安定財源を確保するために宿泊税の導入を検討している。徴収方法は定率制で宿泊料金の2%を想定。宿泊税による税収は23年度一般会計当初予算の約1%に当たる5千万円~8千万円を見込む。倶知安町は19年に道内で最初に宿泊税(税率2%)を導入し、22年度の税収は2億4千万円に達する見通し。一方、斜里町のふるさと納税寄付額は20年度約3千万円、21年度約8千万円、22年度約1億8千万円と顕著に増加している。

 日本の各地方の市町村はいま厳しい少子高齢化の影響で数多くの解決困難な地域課題を抱え込んでいる。本来であれば、日本における地方自治の在り方を根本的に改めるべきであるが、現在の中央政界や官界には期待できない。そのため内発的に地域活性化を意図する市町村による「ふるさと納税」推進や「宿泊税」導入に対して冷静に見守り、支援する必要がある。

 (北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)