[FT]香港入境時の隔離撤廃 中国本土での緩和は見通せず
(日本経済新聞 2022年9月27日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB268W50W2A920C2000000/?unlock=1

【ホッシーのつぶやき】
香港では9月26日、隔離規制が中国で初めて撤廃された。今、香港からの訪日需要に期待が広がっており、香港の規制緩和は「中国本土の規制緩和に繋がる」との期待する声も多い。
しかし、香港と中国本土の行き来はまだ厳しく制限されており、この制限が緩和されてから中国本土と海外の規制緩和になるようだ。
中国のゼロコロナ政策は観光消費だけでなく、中国経済にも多大の影響を与えており、早く規制緩和に向かってほしいものだ。

【 内 容 】
FINANCIAL TIMES
香港の李家超(ジョン・リー)行政長官と言えば、市民から嫌われている厳格な治安取り締まりを監督する立場で最も知られるが、24日には香港中の企業が祝杯を挙げるニュースを発表した。

香港では26日、2020年のコロナ感染拡大以降に導入された隔離規制が中国で初めて撤廃された=ロイター
新型コロナウイルスの感染拡大から2年半にわたって香港を世界から切り離し、香港経済を苦しめてきた隔離政策に、李氏が短い発表で終わりを告げた。「エピデミック(地域的な流行)をコントロールする必要性と、香港の競争力引き上げ(の必要性)とのバランスを取りたい」としている。

これで香港のカムバックへのお膳立てが整ったという声が経済界から上がる一方、今度はさらに大きな問いに関心が向けられるようになった。香港の規制緩和にゴーサインを出した中国政府は、本土の感染を封じ込める「ゼロコロナ」政策を一体どうするつもりなのだろうか。

中国政府が香港入境者へ義務付けていたホテル隔離の廃止を公に認めたことで、本土でも近く規制が緩和されるとの期待が高まった。本土ではいまだにホテルでの7日間の隔離とさらに自宅などでの3日間の健康観察が義務付けられ、国内経済に打撃を与えているばかりか、海外投資家の足を遠のかせている。

全国人民代表大会(全人代=国会に相当)の香港選出の常務委員、譚燿宗氏は「香港が国境(を再び開放できるかどうか)の試験的プロジェクトとなり、中国本土の当局がその影響と関連データを検討する機会をもたらし得る」と指摘する。

譚氏は、中国の政策がすでに実際にはより的を絞って運用されるようになっていると説明する。「中国本土が進んでいく方向は、コロナ規制のさらなる緩和だと思う」と語った。

2023年の全人代までは本土の規制継続
本土の渡航規制が徐々に緩和される兆しは表れている。ある中国国有企業の上海オフィスで管理職にある人物は、来年には海外出張の申請が可能になるだろうという知らせを受けたと明かにした。

だが、香港の入境規制緩和が中国政府の性急な方向転換の印であると早合点しないよう警告するアナリストもいる。

米シンクタンクの外交問題評議会(CFR)で公衆衛生政策の専門家を務める黄延中氏は「香港の状況から、中国本土のゼロコロナ政策がどうなるかを予測することはできない」と主張する。

黄氏の他にも、政治コメンテーターの盧兆興氏などが、2023年3月ごろにも開かれる見通しの全人代までは本土で大幅な規制緩和が行われないとの見方を示している。

ゼロコロナ政策が原因で、中国の国内総生産(GDP)は22年に4~5%ほど下押しされる見通しだ。それでも米金融大手ゴールドマン・サックスは、中国が渡航規制の廃止に乗り出すタイミングが23年4~6月期以降にずれ込み、その後もゆっくりとしか前進しないと予測する。

中国のコンサルティング会社トリビアムの上級アナリスト、シンラン・アンディ・チェン氏は、本土と同じようにゼロコロナ政策を徹底するなら、各地での検査やロックダウン(都市封鎖)を実行できる人員の配置などが必要だと説明。しかし香港にはこれらの条件がそろっていないことに中国政府が気づいたという。

香港の外資に広がる安堵感
「香港のコロナ規制緩和は、香港と本土の行き来が当面は厳しく制限され続けることを意味する」

香港がこれまでに払った犠牲は大きい。22年の経済成長率見通しはマイナス0.5~プラス0.5%に下方修正され、人口は今年に入ってから12万人余りの転出超過となった。

入境者に3週間ものホテル隔離が義務付けられた時期もあり、香港の外資企業の間にはようやく政策が変更されたことへの安堵感が広がっている。

在香港欧州商工会議所のフレデリック・ゴロブ会長は「ゲームチェンジャーとも言えそうで、会員企業のムードが高揚している」と話す。「香港の門戸を再び開こうと推進力が今あることの明確なシグナルだ」と続けた。

ところが経済界の一部では、ホテル隔離義務が廃止されても渡航ペースがコロナ禍前の水準には戻らないとの見方が出ている。入境から3日間はレストランやバーに入れず、1週間にわたって何度も検査を受けなければならないためだ。

たとえ検査で陽性の結果が出ても、公的施設には収容されないというお墨付きも必要だ。在香港ドイツ商工会議所の上級アドバイザー、ウォルフガング・エーマン氏は「陽性になったらゴールドマン・サックスの最高経営責任者(CEO)でも(公的施設に)収容されるという可能性が少しでもあれば、うまくいかない」と強調する。

実質的に閉ざされたままの本土と香港間の往来
「海外の人々や企業はすぐに押し寄せず、この状況が安定的に続くかどうか慎重に見極めようとするだろう」

香港は11月、7人制ラグビーの国際大会「香港セブンズ」の時期に合わせて「国際金融サミット」を開催し、世界トップクラスの銀行や資産運用会社のCEOらを招きたい意向を示している。このようなイベントはかつて、香港で企業幹部同士が親睦を深める重要な機会と位置付けられていた。

ホテル隔離の廃止が24日に発表されるまで、英スタンダードチャータードのビル・ウィンターズCEOと英HSBCホールディングスのノエル・クインCEOの2人しか国際金融サミットに参加の意思を表明していなかった。両行とも収益の多くを香港で稼ぎ出している。フィナンシャル・タイムズ(FT)は世界の主要な銀行や資産運用会社の数々に取材したものの、それぞれのCEOがこのイベントに出席するつもりかどうかの回答は得られなかった。

仏投資銀行ナティクシスの上級エコノミスト、ギャリー・ヌグ氏は、渡航規制の緩和で香港住民が張り切って再び海外に出掛ける半面、インバウンド旅行客の数はそれほど戻らないため、目先は香港経済が打撃を受けかねないとの見方をする。「忍び寄る景気後退から香港経済を救うには、規制緩和では足りない」

かつて経済活動の大きな支えとなっていた香港と本土の間の往来は、まだ実質的にストップしている。中国政府に近い企業が、香港と接する広東省でビジネス目的の出入りを円滑にするよう働き掛けてきたものの、そうした要望は聞き入れられていない。

中国本土の人々は、引き続き国外に出ることがままならず、香港住民が移動の自由を取り戻したのをただ眺めるしかない。中国版ツイッターの微博(ウェイボ)には、広東省に住むユーザーの1人が「(香港の皆さん)おめでとう!うらやましくてため息が出る」と投稿した。