花火大会に異変… 存続へ大きな決断に市民から戸惑いの声も
(NHK NEWS WEB 2023年8月4日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230804/k10014151871000.html

【ホッシーのつぶやき】
これまで無料だった祭りや花火の観覧が有料になる流れにきている。

「松江水郷祭」の花火大会では、花火の原材料価格や台船による運搬費用の値上がりなどで打ち上げ費用が1.5倍、仮設トイレやゴミ処理費用1.8倍、警備費用2.6倍で、今年の開催費用は2億1000万円になる。企業の協賛金6000万円、松江市の補助金1700万円、差額の1億3300万円が主催者負担となり、有料席で賄おうとしている。

全国で開催される花火大会は、約1500ヶ所、7900万人を動員し、経済波及効果は1兆円超だというが、どの地域も開催費用の捻出に悩んでいる。

昨年、熱海の花火大会では、花火大会に和太鼓演奏などでエンターテイメント性を高め、1万円席と10万円席を販売して完売したという実績があり、この流れが松江にも影響しているようだ。

「びわ湖大花火大会」では、地元自治連合会(52自治会、自治会員計2074世帯)が「開催反対」の決議文を大会実行委員会に提出している。反対理由は、交通渋滞や混雑、ゴミ投棄に騒音、そして地元住民が楽しめる花火大会でない所にある。

地元住民の視点で見直し、経済効果も考慮して、花火大会を続けるのか中止するのか決断が迫られる。今後は全国1500ヶ所での開催は難しいのかもしれない。地元住民と行政や主催者団体との話し合いで結論を出すしかないが、大きな時代の流れを迎えているようだ。

【 内 容 】
夏といえば、花火大会。
しかし、ことしは物価高と人手不足で開催中止に追い込まれるケースも出ている。
“夏の風物詩”の存続をかけて、大きな決断に踏み切った現場を取材した。
(松江放送局記者 堀場貴登)

松江の“夏の風物詩”に異変が…
湖上の花火大会としては西日本最大級の規模を誇る「松江水郷祭」。
100年近くの歴史があり、松江市中心部の宍道湖から1万発以上の花火を打ち上げる大会だ。

2022年撮影

主催団体によると去年はおよそ40万人が訪れ、ことしは8月5日と6日の2日間開かれる。
新型コロナの感染症法上の位置づけが「5類」に移行してから初めての開催。
4年ぶりに観覧客の飲食が解禁されるほか屋台も出店し、地元住民や観光業界から「待ちに待った夏の風物詩の復活だ」と期待の声も多く聞かれる。

しかし、主催団体を取材するとそのような明るい話ばかりではないのが現状だ。
主催団体の事務局 松江商工会議所まちづくり推進部 佐々木護室長「開催費用の膨張で、資金の捻出に苦労している。これまでは企業の協賛金などで乗り切ってきたが、限界を迎えている」
物価高×人手不足 開催費3000万増!
主催団体が「限界を迎えている」と訴える開催費用の急増。
主催団体の試算によれば、コロナ禍前の2019年と同じ規模で開催すると想定した場合、開催費用は総額で3000万円も増加するという。

何がそんなに増えているのか。
取材を進めると、花火大会に欠かせないモノが値上がりしている現状が見えてきた。
まずは、大会の主役ともいえる花火。
主催団体によると、火薬や包み紙などの原材料価格をはじめ、台船による運搬費用などが軒並み値上がり。

台船で沖合まで運搬する(2022年撮影)

例年と同じ規模で開催すると想定した場合、花火の打ち上げにかかる費用はおよそ1.5倍になる見込みだ。さらに、会場に欠かせない仮設トイレやゴミの処理にかかる費用も1.8倍ほどに跳ね上がるという。
そして、追い打ちをかけるのが警備費用の高騰だ。その増加率は、去年と比べておよそ2.6倍にのぼる。大会警備を担当する地元・松江市の警備会社に事情を聞いてみると、背景として浮かび上がったのが深刻な人手不足だ。そもそも、警備業界の人手不足は数年前から課題となっていて、今では、花火大会のような数時間の勤務であっても、1日分の日当を出さないと人手が集まらないという。
しかも今は、各地でイベントが多発する夏の行楽シーズン。
必要な要員は島根県内だけではまかなえず、他県などから派遣してもらうため、交通費や宿泊費用も発生。こうした経費も警備費用に上乗せされることになる。
安全対策のいっそうの強化も求められる中、ことしは去年より80人ほど多い400人規模の警備員を確保する予定で、経費はさらにかさむ見込みだ。

物価高と人手不足ー。
ことしの開催費用の総額は少なくとも2億1000万円にのぼり、過去最大になる見通しだ。
この資金をどうまかなうのか。
5500円~5万円の有料席設置
なんとかして財源を確保し、来年以降も大会を継続していくため、主催団体では大きな決断に踏み切った。それが、これまでは一部に限っていた有料の観覧席の大幅な増設だ。去年は、1つのエリアで2600席だった有料席。それをことしは、打ち上げ会場に面した3つのエリアであわせて2万6000席、一気に10倍にまで増設する計画だ。

となると、気になるのがチケット価格。
価格は、観覧に訪れる人たちのさまざまなニーズに応えるため、幅広く設定されている。例えば、最も安いものが、1人あたり5500円の「ブロック席」。
土手などにシートを敷いて座るもので、イスなどはない。
そして、最も高いものが、定員4人でドリンクの飲み放題が楽しめるテーブル席。
お値段はなんと5万円だ。

ことしの開催費用の収支予算案では、企業からの協賛金がおよそ6000万円、松江市からの補助金がおよそ1700万円とされている。
主催団体では協賛金と補助金を差し引いた残りのおよそ1億3300万円は、ほぼすべてを有料席の売り上げで賄いたいとしている。
中でも「ブロック席」の売り上げは9300万円ほどを見込みたいとしている。
地元からは戸惑いの声も
一方で、無料で観覧できるエリアは、有料エリアの後ろ側などに設置される予定で、お金を払わないと全く楽しめないというわけではないようだ。
とはいえ、これまでは“無料での観覧が当たり前だった”花火大会。
地元・松江市民に聞いてみると、その受け止めはさまざまだった。
「皆が納得してチケットを買うのであればいいけど…。ちょっと価格が高いと思う」
「年金生活で余裕がないので、お金を払ってまで見たいとは思わない。個人的には立ち見で十分」
「お金がないと成り立たない部分があるのではないか。『大会の継続』という明確な理由があれば問題ないと思う」
有料席の売れ行きは主催団体によると、2万6000席の有料席のチケットはコンビニエンスストアを通じて販売されている。売れ行きは8月2日時点でおよそ5割。
カメラマンの席やペア席などはほぼ完売しているが、土手などに座る「ブロック席」は伸び悩んでいる状況だという。

主催団体としては、有料席を大幅に増設する代わりに、内容の充実も図るという。
打ち上げる花火の数は、去年より6500発増やし、過去最大の2万発に。
花火を打ち上げる台船も4台に倍増し、これまでにない新しい演出にも挑戦するという。

大会終了後には、市民を対象にアンケート調査を行う予定で、その結果なども受け、地元の住民などの理解も得ながら、来年以降の大会のあり方を模索していく予定だ。
主催団体の事務局 松江商工会議所まちづくり推進部 佐々木護室長
「コスト高という逆風はあるが、エンターテインメント性を高めるなどして、お金を払ってでも見る価値のある大会を市民や観光客に届け、地域の活性化につなげたい。今はもう、やり方を変えないと大会の継続が困難な時代になっているので、さまざまなチャレンジをして続けていきたい」
花火大会をどう守っていくのか
せめて花火大会ぐらいはお金のことを考えずに楽しみたいのにー。
そんな風に思う人も多いかもしれない。

ずっと変わらず続いていくと思っていた夏の風物詩。
時代の流れの中でかたちをかえながらどのように開催されていくのだろうか、これからも取材を続けていきたい。