日本がリード!? 世界のインバウンド回復は?
(NHKニュースWEB 2023年11月30日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231124/k10014267701000.html

【ホッシーのつぶやき】
10月の免税売上額が世界平均23%増に対して日本は123%増と他国より突出している。円安が良いのか円高が良いのかは業界によって変わるが、インバウンド観光では「日本は世界で尊敬され、魅力的な文化があり、風光明美な観光名所も歴史もある。コロナ禍前は訪日にお金がかかっていたが、円安で4割ほど割安になった」と言い、円安の恩恵を受けていることになる。

【 内 容 】
回復基調にあるという日本のインバウンド需要。この勢い、世界の中でもリードしているという見方がある。
それは、世界の人々の買い物動向から見えてくるのだという。
その動向を知る人物が語る、日本のインバウンド消費の現在地とは?
(松山放送局 今治支局記者 木村 京)

世界の免税事情を知りつくした人物
「日本は、世界の中で、回復の先頭を行っている」
こう語ったのは、免税サービスの大手企業「グローバルブルー」のジャック・スターンCEOだ。

スイスに本社を置くこの会社は、世界40以上の国・地域で免税手続きの代行業務を手がけ、日本でも、大手デパートや高級ブランドの直営店、家電量販店など多くの加盟店と提携しサービスを提供している。

この分野で世界シェアはおよそ70%に上るとしていて、スターン氏は、2015年からCEOとして、世界のインバウンド需要の最新動向をウォッチし続けてきた。

外国人旅行者が、訪れた国で買い物をした際に、国内でかかる消費税などの間接税が免除される「免税」。

観光庁の最新の調査で、日本では外国人旅行者のほぼ半数が、免税手続きを利用している。

いわば世界の免税事情を知りつくした人物が、今月上旬のインタビューで、日本の買い物需要について述べたのが、冒頭の発言である。
“円安の恩恵が3分の1”!? 日本のインバウンド消費は
日本が最も回復しているとスターン氏が述べる根拠。

それは、外国人旅行者が加盟店を通じ購入した先月(10月)の免税販売総額にある。

世界全体では、既存店どうしの比較で、コロナ禍前の2019年同月比で23%増加した。

ヨーロッパ大陸全体で15%増、アジア太平洋地域全体で47%増だったが、これに比べ、日本は123%増と、その回復速度は突出しているという。

なぜ、日本が世界の回復をリードするのか。

スターン氏はその背景を、日本が元来持つ観光地としての魅力に加え、「円安」による訪日滞在の割安感が大きいと分析する。

「グローバルブルー」 ジャック・スターンCEO
「日本は、世界で非常に尊敬され、魅力的な文化があり、風光明美な観光名所も歴史もある。ただコロナ禍前は、日本に行くのにかなりお金がかかっていた。例えば都内の部屋で1泊600ドルから700ドルしていたところもある。しかし今は、円安で400ドルになっているので、お手ごろですよね」
日本のインバウンド消費の好調さは、観光庁の統計でも示されている。

日本を訪れた外国人による国内消費額は、ことし9月までの3か月間で速報値で1兆3904億円。

コロナ禍前の2019年の同じ時期を17%上回り、四半期として過去最高を記録した。

スターン氏は、コロナ禍で大きく落ち込んだ日本のインバウンド消費の回復に、円安の要因がどの程度貢献しているかについて、こう指摘する。

「需要回復の3分の1は、円安の恩恵によるものだ」

“爆買い”も円安で変化 中国人旅行者の回復は

日本のインバウンド消費を見る上で忘れてならないのが、中国人の動向だ。
コロナ禍前はインバウンド消費の主役とされ、いわゆる“爆買い”という言葉も使われたように、買い物需要で大きな割合を占めている。

その中国からの旅行者数は、今なおコロナ禍前の2019年の半分以下にとどまる(10月は2019年同月比で64.9%減)。

ただ会社によると、中国からの旅行者が日本国内で購入した免税品の総額自体は、2019年と比べ、8月以降増加が顕著になり、9月には20%増、10月には25%増と、回復傾向が鮮明になっているという。

その理由は、平均単価の上昇だ。
免税1件あたりの平均単価は10月が9万1550円と、2019年比で85%増加。

さらに、購入総額の品目別の割合にも変化が。
化粧品などの消耗品が44%から13%に下がった一方、宝飾品やバッグなどの「一般物品」が56%から87%に伸びた。

スターン氏は、この買い物の質の変化には、中国の旅行者の「ある特徴」が影響していると分析する。

「中国人は価格に特に敏感だ。中国の大都市部からの旅行客の場合、為替が1割、人民元高になると、購入金額が3割増えると期待される」
「円は、対人民元で2019年に比べて30%以上安くなっていて、ブランド品の購入が大半を占めるのは、円安が大きな要因の1つとなっている」
そのうえで、他の国に比べて回復が遅い中国からの旅行者の数も、今後の回復を見込んでいる。

そのカギを握るのが、直航便のダイヤだという。
国土交通省によると、2023年冬期スケジュール期間に計画が認可された中国との国際旅客定期便の数は、2019年冬期に比べて57%減。

依然半分以下にとどまっているが、この点について、スターン氏は独自の情報網から、楽観的に見ていると述べた。

「中国と日本を結ぶ直航便の数が、2019年比で来年夏までに7割程度、来年末にはほぼ同じ水準まで回復するはずだ。また、中国からの団体旅行客は来年の春節ごろには戻りが期待できる。中国から日本を訪れる旅行者の回復はまだ始まりに過ぎず、来年も引き続き、インバウンドによる買い物需要は回復していくのではないか」
さらに、中国をめぐる2つの懸念について尋ねると…

Q.中国経済は回復の勢いが鈍いが、その影響は?
「中国は14億人の消費者を抱える巨大な国だが、パスポートを保有し海外に出かけるのは1億人規模にすぎない。そして海外旅行をするのは裕福な人たちなので、中国経済が苦境に直面しているとしても、インバウンド消費の大きな障害にはならない」

Q.福島第一原発からの処理水放出に対し、中国政府は日本の水産物の輸入を全面停止するなど反発しているが、こうした状況が訪日旅行に与える影響は?
「政治が影響を及ぼすのは世の常だが、数か月後に収束するのもよくあることなので、来年のインバウンド需要の回復に、悪影響はないと考えている」

世界の旅行需要は健在 地政学リスクには懸念も
新型コロナの感染拡大は、テレワークの普及やネット通販の利用拡大など、人々の行動様式を大きく変えた。

では世界のインバウンド需要は、どう変化したのだろうか。
この点についてスターン氏は、コロナ禍を経てもなお健在だと主張する。
「意外に思うかもしれないが、世界のインバウンド需要は、コロナ禍の前と後でそれほど変化はない。ふだん、家ではネット通販で効率的に買い物することもあるだろうが、人は海外を体験し、その土地の商品を買いたいものでしょう。だから変化がないのは当然といえる」
一方で、地政学リスクの高まりは、今後の需要を見通す上で懸念材料だと指摘する。

ロシアによるウクライナ侵攻をはじめ、いかなる衝突も旅行需要に影響を及ぼしうるとした上で、特に注視すべきと挙げたのが、イスラエル軍とイスラム組織ハマスの軍事衝突だ。

「足元で情勢が見通しにくいイスラエルや、ヨルダン、エジプト、イランは旅行者の数が少ないため、現時点の影響は限定的だ。ただ、もし今後、衝突の余波が、トルコのような大きな国や、サウジアラビア、UAE、ドバイなどの周辺国に及んだ場合は、観光分野への影響がより大きくなることが懸念される」
「コロナ禍で人流が3年間遮断された今、世界では旅行を楽しみたいという人々の欲求が地政学的な影響を上回っているのが現状だが、衝突が拡大すればその影響は出るだろう」

日本のインバウンド 今後は?
世界のインバウンド消費を知り尽くすスターン氏。
最後に、日本の可能性について尋ねた。

「グローバルブルー」 ジャック・スターンCEO
「まだまだ天井ではない。10年前は年間1000万人だった訪日旅行者数だが、コロナ禍前には大幅に伸びてきた。来年の旅行需要は、免税品の販売も含め楽観しているし、受け入れのためのインフラさえ整えば将来的に1億人も夢ではないと思う」

日本を訪れる欧米やアジアからの観光客は、春ごろから急増したという印象を地方でも感じていたが、今回の取材は、その感覚を裏付けるものだった。

ただ、インバウンド消費の回復は一見順調に見えるが、円安に起因する部分も大きく、世界情勢もめまぐるしく変化する中で、日本の回復基調がこのまま勢いを保てるか。
観光立国に向けての真価が問われる。

(11月14日「おはBiz」で放送)