評価への視点 集客力を補強するグレーター大阪IR
(トラベルジャーナル 2023年6月8日)
中村好明 日本インバウンド連合会 理事長
(転送不可)

【ホッシーのつぶやき】
『大阪IR』は、当初案の10万㎡としていたMICE施設が、コロナ禍で2万㎡へと引き下げられている。インテックス大阪の7万㎡にも及ばない。MICE施設は稼ぎにくいなか都市の成長に欠かせないため、運営費をカジノで稼ぐというコンセプトは崩れたようだ。
『観光のひろば』でもIRの勉強会を開催した。私たちはカジノが賛成なわけでなく、外国人が求めるカジノの収益により、MICE施設を運営する必要性を感じたから開催したが、本末転倒のIR計画に裏切られた思いだ。
中村理事長が提案する「グレーター大阪IR」を考えなければならないようだ。

【 内 容 】
ついに政府は4月、大阪府・市のIR 区域整備計画を認定した。

同計画では、夢洲にカジノのほか、MICE施設、高級ホテル、シアター、ショッピングモールなどを複合的に整備するとしている。延べ床面積は合計約77万㎡ 、うちカジノ施設は約6.5万㎡、MICE施設は2万㎡。ようやくIR第1号が動き出す。
実はコロナ禍前に大阪府・市のIR推進局から依頼を受け、地元住民向けのIRに関するセミナーで講演したことがある。 その際、反対派の住民から質問攻めにあい、矢面に立ったりもしたので、個人的にも今回の認定は感慨深い。

審査結果報告書を見ると、1000点満点のうち得点は657.9点。合格ラインの6割に当たる600点以
上に達した。同時期に審査された長崎の計画は継続審査となり、大阪のみが辛くも生き残った形だ。長崎もIR計画推進の一部に関わった分、残念な気持ちである。
大阪の審査結果において、評価基準の25項目中、 合格ラインに満たなかった3項目の中でもよく吟味
すべき点は、得点率58.6%の「観光への効果」である。審査結果報告書を読んでみると、MICEの開催件数(開業3年目に約29件)という目標について、「必ずしも多くはなく、件数増加に向けて努力することが求められる」としているものの、来訪者全体の数値目標(同約1987万人、うち訪日外客629万人)を「シンガポールと比較しても遜色ない」と評している。算出根拠の脆弱性についての指摘はあるが、概ねなぜか高評価である。ただし、「国内来訪者の割合が多くなっている」と指摘し、「外国人来訪者の増加に向けたプロモー ションと集客が重要である」と課題点を剔抉(てっけつ)している。このあたりが評価点を下げた要因だと思う。

高すぎる集客予測

 実際、大阪府・市と運営会社である大阪IRの計画書を読み込んでみると、集客の数値目標は高すぎる予測値だと感じる。隣接し、しかもより都心近い ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ、面積約54万㎡) の年間来場者は約1430万人(18年実) 。計画ではカジノ施設だけで年間約1610万人の来場者を見込んでいる。大阪IRのカジノ施設はUSJの約8 分の1の面積で、これを上回る来場者数を獲得する内容だ 。なお、USJの1日入場パスは8600円(4歳から有料)。 一方、カジノ施設の入場料は6000円(外客は無料)で、20歳以上のみが入場可能である。しかも、連続する7日間での入場は3回まで、同28日間での入場は10回までという回数制限がある 。また、日本人はマイナンバーカード、外国人はパスポートの提示が義務付けられる。若年者が多いUS」と異なり、カジノ施設には未成年は入れず、しかも回数制限もある。
 年間目標のカジノ来場者約1610万人を365日で割ると、1日平均約4. 4万人を呼び込む必要がある。一方、カジノ施設の収容人数は1万1500人。4. 4万人をこの収容人数で割ると、連日連夜満席を達成 しつつ、 さらに約3.8回転が必要となる。施設やマンパワーを酷使して、相当頑張らなければ達成でき ない集客目標である。また、IR全体の来場者数のうち外客割合約31.7%という数値目標は、審査委員会の指摘とは裏腹に、実は相当挑発的なものだと思う。 コロナ禍前、東京ディズニーリゾートもUSJも外客割合は10%超程度にすぎなかった。この約3倍を目指すというのだ。シンガポールのIRの入場者は、自国民3割、外客7割である。約31.7% どころか、日本唯一のIRは本来、シンガポール並みの70%を目指すべきなのだろうが。

単独でなくエリア連携で

では、どうやって目標値どおりに国内外の客を大阪IRに呼び込むのか。実は不都合な真実として、大阪IRのアキレス腱はMICE施設の小ささにある。報告書では国際会議場施設の規模について、「最大規模のグランドボールルームは、パシフィコ横浜(6000人収容・6300㎡) 等を上回る施設規模(6821人・6480 ㎡) を有し、国際的な会議を誘致・開催する上では十分な施設規模」となぜか最大級の評価のみが述べられている。
しかしMICE施設の最重要点は会議場ではない。見本市のための展示ホールの規模である。19年の当初案では10万㎡以上を確保するとしていたMICE施設は、コロナ禍のなか、事業会社からの陳情により、21年段階で2万㎡以上へと大幅に引き下げられた。老朽化している関西最大の展示場、インテックス大阪(約7万㎡)にも及ばない規模だ。本来、稼ぎにくいが都市の成長に欠かせない国際展示場の運営予算をカジノで稼ぎ、観光立国の目玉にするというシンガポール型IRのコンセプトは実質崩れており、大阪IRはラスベガス風の大型カジノホテルリゾートへと変質・矮小化しているのだ。
 ちなみに、シンガポールのマリーナベイサンズには、東京ビッグサイトの1.5倍に当たる総面積12万㎡の巨大MICE施設が備わっている。全施設を合わせると、2000の展示スペース、250の会談室があり、4.5万人以上が収容可能だ(大阪IRは1.3万人程度)。もはや、外形的な枠組みは変更不可能だろう。大阪IR成功のためのキーワードは2つ。1つ日はエリア連携だと思う。 インテックス大阪、USJ、海遊館などを含む大阪湾の臨海地域全体を仮想的に「グレーター大阪IR」として、観光DX版のコンプリメンタリーを駆使し、世界に売り込み集客する戦路が重要だ。 コンプは、カジノのゲームに費やした金額や時間に応じてカジノ以外で割引サービスや特典が受けられる還元システムを指す。 一度訪れた顧客をリピーターとして確保するためだ。カジノの収益でインテックス大阪の大規模改修に投資し 、最先端の施設へと生まれ変わらせる必要もあるだろう。2つ目は夜の魅力づくりだ。カジノは24時間休みなく動く。ゲーミング時間以外の夜の楽しみが必要である。大阪都心の街全体の24時間化が不可欠となる。そして、何よりも大事なことは、25年の大阪・関西万博の成功だろう。万博の成功が大阪IRの成功の試金石と将来の集客の原動力となることは言うまでもない。

グレーター大阪IRのイメージ