2021年の日本酒の最大輸出相手国は中国に、大連のバイヤー3社に最新市場動向を聞く
(JETROレポート 2022年4月13日)
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2022/aa4e4e3ce1463532.html

【ホッシーのつぶやき】
中国向け日本酒輸出金額が伸びている。2021年は26%1位、アメリカが2位で24%という。2011年の東日本大震災までは「久保田」の千寿が人気だったが、「獺祭」ブームで「日本酒=獺祭」というイメージが定着し、これまで主要販売先であった飲食店がコロナで減少し、越境ECが伸びており売り上げの約2割を占める。
世界的にも日本酒の輸出量は増えており、「獺祭」の与えた影響は大きい。

【 内 容 】
日本の財務省が発表した貿易統計によると、日本の中国向け日本酒輸出は新型コロナウイルス禍の影響が出た2020年を除き、増加を続けている。2021年は数量で前年比52.3%増の7,268キロリットル、金額で同77.5%増の102億8,000万円となった(図参照)。

日本酒の輸出先でみると、中国は金額ベースで2017年に世界第3位となり、2021年は初めて1位に躍り出た(表参照)。

増加を続ける背景には、新型コロナ禍前は中国人の訪日観光客の増加や、中国内での「獺祭」(だっさい)ブームに伴う日本酒の認知度向上(2021年3月26日付ビジネス短信参照)、日本酒の主要販路である日本料理店の増加、それに加え、コロナ禍後は新型コロナウイルスのため訪日観光できなかった人による国内消費の増加、EC販売拡大などが挙げられる。
中国における日本酒を取り巻く最新市場動向について、日本産酒類を取り扱っている大連のバイヤー3社に話を聞いた。
(1)獺祭ブームに乗って日本酒プレゼンスの向上図るべき(大連華湘商貿)
大連華湘商貿は2004年に設立の食品貿易業だ。関係会社の上海華湘貿易発展が日本から輸入している酒類のうち、日本酒、焼酎、梅酒の東北3省での販売を担当している。主な販売先は日本料理店で、中高価格帯の日本酒類を販売している。2017年に東北3省で初となるSSI(日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会)認定の「国際利き酒師」資格を取得した周富林総経理に話を聞いた(3月23日)。

質問:設立当初の2004年から現在までの東北3省における日本酒市場の変化は。
答え:2011年の東日本大震災までは、東北3省では中高価格帯の日本酒として久保田の「千寿」(新潟県産)が人気だった。当社では千寿を代理販売しており、売れ行きは好調だった。しかし、東日本大震災後、中国政府による10都県(注1)の食品に対する輸入停止措置を受け、新潟県産は輸入できなくなったため、千寿に代わる売れ筋商品を目指し、各ブランドの市場獲得競争が激化した。その中で現在確固たる地位を築いたのが獺祭で、東北3省に限らず中国の他地域でも人気を博している。中高価格品を求める消費者に「日本酒=獺祭」というイメージが定着している。日本酒の注文時に獺祭を頼めば外れはないし、かつ接待時にもメンツが立つと思われているからだ。当社では獺祭を代理販売していない。

質問:新型コロナウイルスの影響は。
答え:設立年の2004年から2014年までは売上高が右肩上がりだったが、それ以降、とりわけ新型コロナウイルスが発生した2020年以降は、市場開拓の難しさが増している。主要な理由として、獺祭の市場シェアが高まっていることや、中国市場で展開する日本酒の種類が増加して競争が激化したこと、接待が減って中高価格帯の日本酒の消費が減少したこと、新型コロナ感染対策として料理店でのイートイン消費が規制されるケースが増えたこと、新型コロナ以降は消費者を引き付けるために、酒類持ち込みを許す料理店が増えたことなどが挙げられる。

質問:消費者の日本酒に対する認知度は。
答え:2004年当時、東北3省の多くの中国人は日本酒をよく分かっておらず、「日本酒とは日本料理店で温めて飲むお酒」という認識にとどまっていた。そのため、こちらから多くの日本料理店に出向いて、オーナーや店員を対象に日本酒講座を開き、日本酒の知識や料理とのペアリングについて教えた。十数年の年月を経て吟醸系の日本酒はハイクラスであることや純米日本酒は健康的とのイメージが定着しつつあるが、日本料理店や店員の入れ替わりが激しい中、日本酒の基礎教育は必ずしもうまく受け継がれていないのが現状だ。一方で、獺祭ブームを通じて、日本酒への関心は確実に高まっている。このブームに乗って日本酒全体のプレゼンスを高め、より多くのブランドが注目されればよいと考える。

質問:今後の市場展望は。
答え:食の口コミサイト「大衆点評」(注2)で東北3省の日本料理店のうち、客単価200元(約3,800円、1元=約19円)以上の店舗を検索すると、約200軒が出てきており、それらが日本酒の主要販売先になっている。ただし、コロナ禍によって、日本料理店の店舗数の増加と日本料理店における日本酒調達量の拡大は大きくは見込めない。一方で、大連は海鮮を食べることが多い街であり、海鮮料理と日本酒は相性が良く、海鮮料理店や一般家庭向けの市場開拓は有望とみている。今後もペアリング方法や日本酒の健康的なイメージを継続的に伝えていき、より多くの中国人の日本酒に対する理解を深めていきたい。
(2)売れ筋は獺祭と低価格帯だが、多様性求める消費層も出現(大連欣欣青果)
大連欣欣青果国際貿易は2005年に設立、2008年から日本産酒類の輸入販売を開始した貿易商社だ。日本酒、焼酎、リキュールを中心に取り扱っており、中でも日本酒のSKU数(注3)は106と、当社取り扱いのSKUの過半を占める(インタビュー時点)。中国各地の1,000店舗を超える日本料理店に卸しており、2020年にはEC販売も開始した。同社の日本語が堪能な王欣マネジャーに話を聞いた(3月21日)。

質問:中国における日本酒の主要市場は。
答え:上海市とその周辺地域、広州市や深セン市を中心とする珠江デルタ地域、北京市、大連市に集中している。近年は内陸地域の四川省成都市や重慶市、湖南省長沙市、広西チワン族自治区南寧市、陝西省西安市でも日本酒のニーズが拡大しつつある。中国における日本酒の主要販売先は日本料理店だが、近年はEC販売も拡大している。

質問:日本料理店での消費動向は。
答え:消費者が日本酒に触れ合うきっかけとして、日本料理店は重要なプラットフォームとしての役割を果たしている。一方で、近年はECで販売される日本酒が増えており、日本料理店への影響がある。一般的に、日本料理店での価格はスーパーマーケットやECより割高の値段設定となっている。そのため、同じ銘柄を日本料理店向けとオンラインのそれぞれで流通させた場合、消費者が日本料理店の価格とオンラインの小売価格を調べてしまい、日本料理店での消費に影響が出てしまうことがある。従って、日本料理店向けにはEC上で販売されていない銘柄を導入、またはEC上でも販売する場合は日本料理店への販売価格より高く値段設定をして、EC上では宣伝機能のみ果たすなどの差別化戦略を図ったほうがよい。

質問:売れ筋商品の特徴は。
答え:獺祭と低価格品、例えば、日本料理店での販売価格が一升瓶で180~220元(約3,420~4,180円、1元=約19円)の価格帯の商品が売れている。純米大吟醸で、価格に優位性があれば可能性はあるが、獺祭より価格が高い場合は難しい。日本料理店では通常、仕入価格の2.5~3倍で販売しているため、仕入価格が高い商品に関しては、中国での知名度が高いか、または味やその他の面で消費者を引き付けられる特徴がない限り、日本料理店への参入ハードルは高いと考えてよい。一方で、獺祭以外の日本酒を求める消費者もいる。どこでも販売されている商品ではなく、他者と違うものを楽しみたいニーズもある。近年の新しい変化であり、このような消費層が増えれば、日本酒の市場はさらに拡大するのではないか。

質問:2020年からスタートした貴社のEC販売の状況は。
答え:2021年はEC販売の成長は速く、売り上げ全体の約2割を占めた。大手ECモールの淘宝、京東、天猫に自社店舗を設けているほか、TikTok、快手などのショートビデオアプリでIDと店舗を持っているインフルエンサーと連携してライブ配信も行った。新型コロナウイルス感染拡大以降、日本への渡航が困難となる中、TikTokや微博などのSNSを通じて日本商品の知識を得る若年層が増加している。当社ではSNSを活用した宣伝を重要視しており、中国内での専売権を持っている商品を中心に宣伝している。