「鎌倉殿の13人」を振り返る :北川央
(産経新聞 2022年12月21日)
https://www.sankei.com/article/20221221-4ZD5Y5IJJRLBFNONXEK3OZ2JLY/?872584
【ホッシーのつぶやき】
「鎌倉殿の13人」の放送も終了した。これまでのサクセスストーリー、ヒーローものとは違ってドロドロした感は拭えないダークヒーローを主人公にした大河ドラマでした。
北川央さんは「大河ドラマも基本的には時代劇」と喝破しながらも、地上波に残された数少ない時代劇であり、その時代の衣服や小道具、所作などのノウハウが詰まっていると言います。
天皇支配だった平安時代から武士集団の鎌倉時代が生まれ、紆余曲折があり、その後の戦国時代へ、そして現代へとの変遷を考えると面白い大河ドラマだったと思います。
【 内 容 】
小学6年生の時、初めてNHK大河ドラマ「国盗り物語」(昭和48年)を見て、戦国時代に興味を持つようになりました。大学で専門的に歴史学を学ぶようになると、史実と異なることも多い大河ドラマから離れてしまったのですが、62年に大阪城天守閣(大阪市)に学芸員として奉職した際、主任(当時の館長職名)の渡辺武さんから「仕事として大河ドラマを見るように」と言われました。関連する歴史的な質問が、来館者はもとより電話や手紙などでたくさん寄せられるからです。
以来、近現代物の「いだてん~東京オリムピック噺~」(平成31/令和元年)を除いて、「独眼竜政宗」(昭和62年)以降の大河ドラマはすべて見ています。専門の織豊期(安土桃山時代)だと、史実とフィクションの違いが気になって仕方がないのですが、今回は専門外の鎌倉時代ですから、気楽に見ることができました。
ピュアな青年だった北条義時が、やがて政敵や身内までをも容赦なく次々と殺害し、権力の亡者になっていく。主人公の変化を描いたのは、プラスの評価点です。主役をここまでダークヒーローにした大河ドラマは、これまでになかったような気がします。
義時の兄、宗時を演じた片岡愛之助さん、梶原景時役の中村獅童さん、源義経役の菅田将暉さんら主役級の豪華な俳優陣が早々と順次退場していくのも、目を引きました。これまで、ビッグネームの役者は最後まで登場することが多かったように思いますが、斬新でぜいたくなドラマでした。
また、世継ぎがいない第3代将軍、源実朝を女性を愛せない設定にして、LGBTQ(性的少数者)という現代的な課題に向き合っていました。
オープニングに、時代考証、風俗考証などの専門家の名前が示されることもあり、大河ドラマは史実に非常に近いものだと一般的に思われているようです。
かつて、歴史小説が原作の場合は、時代考証の専門家が、小説の誤りを正したり、新しく判明した歴史的事実を加えたりして、より史実に近づけるようにしていました。しかし、私の印象では、「功名が辻」(平成18年)辺りから史実にこだわらない方向に舵が切られたように思います。「江~姫たちの戦国~」(23年)はそうした雰囲気が顕著に感じられました。
今回は第1回を見た時点で、大河ドラマもここまで来たかと感じました。現代の言葉遣いに所作、コメディータッチの掛け合いなど、脚本家の三谷幸喜さんらしいなと思いました。
史実と異なることを広めてしまうとして、大河ドラマに否定的な研究者が多いのも事実です。私自身、真田幸村や聖徳太子を主人公にした歌劇などの舞台作品をいくつも作ってきましたが、史実の羅列だけでは小説やドラマにはなりません。主人公の心の動きなど、史実と史実の間をフィクションで埋めていくことで初めて成立します。大河ドラマも、基本的には時代劇と思って見た方がいいのではないでしょうか。
一方で大河ドラマ化が決まると、関連書籍が数多く出版され、専門家がその時代や人物についてきちんと書く機会に恵まれ、正しい知識も普及していきます。そうしたプラスの効果に目を向けるべきだと思います。また、民放の時代劇が激減する中、大河ドラマは、地上波に残された数少ない時代劇ともいえます。時代劇は衣服や小道具、所作など、さまざまなノウハウが必要になってきます。その継承という意味でも頑張ってほしいです。
大河ドラマは1年に及ぶ全国放送で、人々にとって歴史に興味を持つ機会になっているのは間違いありません。優れたコンテンツとしてその意義を積極的に評価したいと思っています。(聞き手 横山由紀子)
「面白さ」詰め込んだ三谷脚本
今年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」は源頼朝の妻となる北条政子の弟で、第2代執権の北条義時(1163~1224年)が主人公。平安時代末期から鎌倉幕府の誕生、有力御家人13人による合議制への移行と執権政治の確立という激動の時代を描いた作品だった。
脚本を手掛けたのは三谷幸喜さんで、大河を担当するのは幕末に活動した浪士たちを軸に描いた「新選組!」(平成16年)、戦国の勇将・真田幸村の奮闘を描いた「真田丸」(28年)に続き3作目だ。
「鎌倉殿」序盤は、源氏のヒーロー・源義経らを中心に、人形浄瑠璃文楽や歌舞伎といった古典芸能の世界でも数多く描かれてきた時代でもある。三谷さんは令和2年の記者会見で、北条一門について説明しながら「面白いドラマになる要素が詰まっている」と語っていたが、その言葉が暗示していたように「鎌倉殿」は英雄譚とは一線を画した。
ささいな言動の行き違いから芽生える疑心や欲、裏切り、葛藤…。物語が進むにつれ、人間くささを強めていく。「吾妻鏡(あづまかがみ)」など当時の歴史書に残る記録や史実をベースにしつつ、三谷さん独自の視点が歴史絵巻の登場人物たちの心中や背景を補完する形になり、この時代を懸命に生きた人々を色鮮やかに浮かび上がらせたといえる。
小栗旬さん演じる義時の父、時政役の歌舞伎俳優、坂東彌十郎(ばんどう・やじゅうろう)さんや、人をあやめる汚れ仕事を引き受ける善児役の梶原善さんなど、脇役を固めた実力派俳優たちの好演も、人間ドラマを際立たせた。