変貌するミナミ 順風満帆のキタと新線開業で囁かれる「素通り」危機は回避できるか
(産経新聞 2024年5月5日)
https://www.sankei.com/article/20240505-2QZJW32QKBNXZMSYH23MW6Z5OU/

【ホッシーのつぶやき】
なにわ筋線、南海電鉄「南海新難波駅」が令和13年に開業。阪急電鉄も十三と大阪、新大阪を結ぶ連絡線を令和13年に開業と、大阪の鉄道が大変身する。
「インバウンドがミナミを通過してキタに向かってしまう」危険性が指摘されているというが、大阪に来るインバウンドの最大の目的地はミナミだ。逆にキタからミナミに集客する可能性もある。キタはビジネスとハイセンスな街。そこに巨大な緑の「うめきた2期」の公園が生まれることが魅力になる。
「キタ」と「ミナミ」は違う魅力で相互に発展していく。

【 内 容 】

大阪市の繁華街、ミナミで再開発の動きが本格化している。ミナミの中心部である難波では旅行客らがくつろげる広場が整備され、高級ホテルやオフィス、商業施設の開発が続く。難波周辺に本社を構える南海電気鉄道などは令和13年に、新線「なにわ筋線」の開業に合わせて新駅も開業する。関西国際空港から、キタと呼ばれるJR大阪駅方面へのアクセスを向上させる新線開業は訪日客のミナミの〝素通り〟を促す懸念もあるが、企業や自治体はミナミの魅力を高めて、人流を引き止めたい考えだ。

「こんな場所ができていたなんて、知らなかった」。4月下旬、南海難波駅前の広場を訪れたカップルは、驚きの声を上げていた。周囲では多くの家族連れや訪日客が行き交い、思い思いの時間を過ごしていた。

大阪市が南海などと協力して昨年11月に開設した、広さ約6千平方メートルの「なんば広場」だ。市は「世界をひきつける観光拠点」として整備を進めてきた。ベンチや照明なども整備され、雑多な印象が強かったこれまでの難波の雰囲気とは大きく異なる。

ミナミでは、難波を中心に再開発の動きが本格化している。

なんば広場に続く通りを進むと、関電不動産開発や南海、大阪メトロが計画する、大型複合ビルの建設用地が見えてくる。高さ100メートル超の新ビルは13年ごろに開業する計画で、上層階には4つ星ランクの高級ホテル、下層階にはオフィス、商業施設が入居する。ビルには周辺部に抜けられる通路を整備し、店舗などが密集する「〝裏なんば〟と呼ばれるエリアにも通行しやすくする」(関係者)という。

なにわ筋線の新駅「南海新難波」は、千日前通に面した地点の地下に開設される。同駅は南海と第三セクターが共同で開発を進めており、南海は地上部周辺の開発も視野に入れる。南海はさらに、昨年7月に難波駅南側でホテルやオフィスビルなどを備える新開発地区「なんばパークスサウス」も全面開業させた。

難波周辺は従来、小規模店舗が多く、土地の所有なども複雑に入り組んでおり、開発が遅れていたのが実情だ。ただ近年、訪日客が激増するなか「彼らを受け入れるインフラの重要性を地権者らが認識するようになり、大規模開発にも徐々に同意するようになっていった」(ミナミの不動産業界関係者)という。店舗が保有していた倉庫などが、ネット通販の普及で不要になったことも、再開発を後押ししていると指摘される。

不動産経済研究所大阪事務所の笹原雪恵所長は「自治体と企業が連携して地域の魅力を高める開発を目指す動きが本格化したことが、ミナミの状況を変化させつつある。今後の発展が注目される」と語っている。(黒川信雄)

JR大阪駅周辺 より大規模な開発進む

ミナミをめぐっては、令和13年になにわ筋線が開業すれば、関西国際空港から来日したインバウンドがミナミを通過してキタと呼ばれるJR大阪駅周辺に向かってしまう危険性が指摘される。

新線が開業すれば、関空からはJR西日本、または南海電気鉄道の路線と、なにわ筋線を経由して、大阪、さらに新幹線停車駅の新大阪に行くことができる。阪急電鉄も13年には十三と大阪、新大阪を結ぶ連絡線の開業を目指しており、関空と新大阪のアクセスはさらに改善する見通しだ。ミナミの開発を主導する南海にも、新大阪に直通できるメリットがある。

ただそれは、訪日客がなにわ筋線の路線外にある南海難波駅を訪れなくなる可能性ももたらす。なぜならキタでは、さらに大規模な、訪日客に魅力ある開発が進められているからだ。

具体的には今年9月に、巨大な都市公園や商業施設、ホテルなどを備えた再開発地域「うめきた2期」が大阪駅北側で部分開業される。日本の〝里山〟をイメージして整備されるという公園には桜など約800本の樹木が植えられ、巨大な緑の空間が生まれる。

大阪駅周辺ではまた、日本郵便やJR西などが旧大阪中央郵便局跡地で開発を進めてきた大型複合ビル「JPタワー大阪」が竣工したほか、ほかの新ビル開発も進む。歩行者デッキなども整備され、駅周辺の移動もスムーズになる。

巨額の投資が長年行われ、大規模開発が進められてきたキタに対し、ミナミの開発は規模では太刀打ちできないのが実情だ。ミナミには、その独自の魅力を高める開発が求められている。

ミナミはキタと異なる魅力発揮を

日本総合研究所・藤山光雄関西経済研究センター所長
キタよりも遅れていたミナミの再開発が進むことは、大阪全体の発展という観点から好ましい。ただ、ミナミがキタと同様の開発を目指しても、先行しているキタに追いつかず、その魅力も乏しいものになってしまう。だから私は、ミナミは以下の2点を念頭に入れ再開発を進めるべきだと思う。

ひとつは地理的な差別化だ。大阪市の南側にあるという立地を生かし、商業施設やオフィスの整備と合わせ、近接した地域に住む人々や大阪府南部にある関西国際空港から来る訪日客を引き寄せることができると思う。

またもうひとつは、ミナミが持つ大阪らしさの発揮だ。大衆文化や、良い意味での雑多な雰囲気がミナミにはあり、それはブランドショップが多く立ち並ぶキタとは異なる。それぞれが、異なる魅力を発揮することで、役割分担ができる。

また、ミナミは大阪市より南側にある自治体と連携することで、大阪府南部に人々を誘客する「入り口」のような役割を担うこともできるだろう。ミナミはさまざまな角度で、その魅力を発揮することが可能だ。(聞き手 黒川信雄)