『阪神間再興! 新しい地域連携のカタチ ~神戸阪神間DMO認定にむけた取り組み~』
日本経済大学 神戸三宮キャンパス 経済学部准教授 矢下幸司
(観光のひろば 2024年3月12日)

【ホッシーのつぶやき】
矢下さまの講演は、320枚のスライドを50分で話すという超スピードでしたが、講演の流れは良く、良き復習の機会になりました。
取り組まれている『神戸阪神間DMO』は、「六甲修験」「六甲縦走路」を軸にされており魅力を感じましたが、芦屋市がオーバーツーリズで住環境が守れないと懸念を表明されており、理解を得ながら進めるとのお話でした。
地域のステークスホルダーが連携する必要性を強く感じる機会にました。

【 内 容 】
西宮で生まれ育って、東京に17年間行き、兵庫に戻って大学で教員をしながら、神戸阪神間で民間主体のDMO設立に取り組んでおります。
最初に、観光産業(旅行業ビジネス)の歴史を振り返ります。2003年までは日本からの海外旅行と日本人の国内旅行が主な観光でしたが、2004年以降、訪日旅行(インバウンド)が加わりました。
 参考:OTA(Online Travel Agent):旅行商品販売プラットフォーム。
    メタサーチ:複数のOTAを同時に検索し、結合して表示する仕組み

2004年、小泉首相が『観光立国宣言』を出され、観光の低迷期からの脱却を目指しました。2008年には『観光庁』が設置され、「観光立国」が推進されました。そして観光は「地域の歴史や文化を学ぶ機会」「魅力ある地域作り」「国際平和」に貢献し、「大きな経済効果」をもたらすとされました。  
2007年に「観光立国推進基本法」が制定され、重要文化財等を宿として提供されるようになり、アートを含めた文化観光が推進され、全国297の美術館が登録されました。自己の収入で運営できる美術館は3割程度で、残り7割は交付金や補助金で運営されており、美術館に地域の観光をリンクさせて収入を拡大させるのも今後の課題になります。こうして観光立国に向けた事業が推進されてきましたが、近年、京都市などではオーバーツーリズムと言われる現象が起こり、量から質への転換を目指すこととなりました。
観光スタイルも、観光バスで周遊するスタイルから、一つの場所で思い思いの時間を過ごす着地型観光へ、多様なニューツーリズムへ変化していきました。
2023年3月、2023年〜2025年度に向けた「新たな観光立国推進基本計画」が策定され、量から質への転換と持続可能な観光を目指すこととし、観光客の数ではなく、消費額を増やすことを目標と定めました。そして訪日旅行一人1回あたりの総消費額が100万円以上の高付加価値旅行を増やすことを目標として定めました。
ここまでのまとめですが、①少子高齢化・定住人口 → 交流人口 ②観光立国宣言 ③観光立国推進基本法 ④観光業は成長分野 ⑤観光分野のトレンドの変化 ⑥周遊型から着地型 ⑦ニューツーリズムへと変化してきたというお話しです。

ここからが本日のテーマですが、地域経営の手段の一つとして「観光地域づくり法人」、阪神間再興、新しい地域連携として「神戸阪神間DMOの認定」に向けた活動に取り組んでいる話をさせていただきます。
その前に、観光庁が規定した「日本版DMO」とは、『地域の「稼ぐ力」を引き出すとともに、地域への誇りと愛着を醸成する、観光地経営の視点に立った観光地域づくりの舵取り役として、多様な関係者・・・の調整機能を備えた法人』とされており、2015年から政府による登録制度が開始され、2023年3月には300超が登録されました。しかし72%が地域課題の解決になっていないといい、「既存観光協会の焼き直しに過ぎない」との声もありました。私が特に良かったと思うDMOは『八ヶ岳観光圏』で、これを参考にしながら「神戸阪神間DMO」の取り組みを進めようとしています。

兵庫県の人口も神戸市の人口も減少しています。兵庫県の観光地は神戸阪神間の都市部に集中し、GDPが高いのは但馬と淡路島、兵庫県の観光は、宿泊日数が短く、近隣からの来訪が大半を占め、周遊観光ができていない、旅行消費も伸びていないという状況です。ただ、有馬や城崎の宿泊施設の満足度は高いという特徴があります。問題なのが入込客数です。令和4年度の入込客数の1番は阪神甲子園球場で、甲子園の年間予約席も観光客数にカウントされているなどの問題もあります。
兵庫県のDMOは「ひょうご観光本部」や「神戸観光局」が登録されており、地域DMOでは、赤穂市で設立する動きがあり、「せとうちDMO」に入っていたり、鳥取県と連携したDMOもあります。豊岡のDMOは、民間も一緒になって活動している元気なDMOになります。

今、取り組んでいる「神戸阪神間DMO」は、神戸市、芦屋市、西宮市、尼崎市、宝塚市、伊丹市、猪名川町、三田市がエリアになります。しかしこの地域は観光の魅力が必ずしも引き出されておらず、2018年、当時の宝塚市長の中川さんと面談した際、宝塚ファミリーランドも閉園して15年立っているが「このままだと観光集客都市としての存続が厳しい、他市との連携も含めた振興策はないものか」と言われました。宝塚市は最盛期には50軒の旅館が軒を連ねていましたが、今は温泉旅館「ホテル若水」だけになっています。ここで打ち合わせをしている時、登山客の方がどんどんお風呂に入りに来るのを目にしました。この登山客は六甲縦走路の帰着点の宝塚で温泉に入る方達だったのです。調べると「六甲修験」という神仏融合祈りの道があることも分かりました。

まとめますと①宝塚市だけでは観光振興に限界がある ②近隣市との広域連携と考えた ③「八ヶ岳DMO」が素晴らしいのでベンチマークにして ④六甲山のテーマ性、ストーリー性を考え、六甲修験・六甲縦走路に辿り着き ⑤六甲山に関わる神戸・芦屋・西宮・宝塚の4市で広域連携を組むという構想を持ち「神戸阪神間DMOを目指す会」を設立、賛助会員を募集し、2年前に発起人会を設立しました。
この時、コロナの問題もあり、進展が遅くなっていますが、「夜景・星空ツアー」「須磨寺早朝参拝・勤行体験」「明石大橋 貸切観光タクシー」などにも取り組みました。また、近代建築の巨匠“フランク・ロイド・ライト”が設計した「ヨドコウ迎賓館」が世界文化遺産登録の候補に上がるという話も出たのですが、芦屋市は、観光地化されると、オーバーツーリズムの懸念が生じるので、住環境が守れないと、“受け入れできない”との回答となりました。神戸市、宝塚市の合意形成は取れて、西宮市は合意形成の進行形ですが、芦屋市は合意形成が取れていないという状況になります。
そのような中で「ツーリストシップ」という考え方から、観光に行く地域のことを学んで、「暮らすように旅する観光」という考え方で、観光客に来てもらうように考えています。そして、持続可能な街づくりとして「阪神間モダニズム文化」も取り入れて取り組みたいと講演を締めくくられました。